Meiji.net

2016.10.05

天皇の生前退位の「意志」を認めない「意図」の方が問題

天皇の生前退位の「意志」を認めない「意図」の方が問題
  • Share

天皇陛下(以下、敬称を略す)が生前退位の意志をもっていることについて、以前からマスコミなどで報道されていましたが、8月8日、天皇自身の声明がありました。なぜ、天皇が自ら生前退位について言及しなければならなかったのか、また、なぜそれを問題視する理由があるのか、歴史的観点から考えます。

現代に相応しくあろうとする天皇と、明治天皇を理想とする一派

山田 朗 8月8日に発表された天皇の声明は、生前退位の制度化を求めたメッセージであり、昭和天皇が重態に陥った際(1988年9月~89年1月)の過度な「自粛」のように、自身が高齢化して病床に伏せることで、日本社会の沈滞を招くことへの危惧が表明されています。また、「象徴天皇」について多く触れているのは、「象徴天皇」が制度化されて70年近くが経ちましたが、現天皇は、「象徴天皇」として最初に即位した天皇として、「象徴天皇」のあり方、現代に相応しい天皇のあり方が、いまだに未確立であるとの認識を示したものだと考えられます。つまり、現代に相応しい天皇のあり方と、それを支える世襲のシステムを確立しておかなければ、天皇制そのものの存続が危ぶまれる、との危惧からの発言であったと思われます。

 現行の皇室典範は天皇の引退(生前退位)が許されない制度となっていますが、それは極めて不自然であり、非人間的といわざるを得ません。今回の声明を、天皇という一人の人間の発言という点から見れば、極めて自然な気持ちの現われと感じます。世論調査では、8割以上の人が生前退位の制度化に賛成しているといいます。通常の市民感覚からすれば、当然のことでしょう。

 一部に、この天皇の発言を皇室典範の改正を希望すること、つまり天皇の政治的発言に当たるとして問題視する意見があるといいますが、それはおかしなことです。天皇の生前退位という問題は、現実には周囲から発議できるような事案ではありません。天皇の発言はそれを慮ったものでしょうし、さらに、象徴天皇として最初に即位した天皇として、自分の代で現代に相応しい天皇継承のあり方の制度を整えておきたい、という考えからの言動でしょう。実際、天皇はかなり前から生前退位の意向を周囲には伝えていたようであり、宮内庁でも制度改正の検討を進めていたといいます。ところが、天皇の発言を問題視する人たちは、政治的発言が問題と言っていますが、その本当の意図は、明治国家を天皇制のスタンダードと考え、国家の権威の源泉であった明治天皇のような存在を理想形としたいということでしょう。天皇は「国民統合の象徴」であるという際に、「象徴」よりも、「統合」を強調する見方です。このような明治時代を理想とする見方からすれば、現代に相応しくあろうとする現天皇の発言は、“問題”ということになるのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい