
人生のターニングポイント「人生を変えるゼミ」の取り組み方と助け合い
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【106】
私が現在の研究者の道を歩むことになったのは、2人の恩師のお蔭です。
1人目の恩師は、学部時代のゼミの指導教員であった、山口操先生(慶應義塾大学名誉教授)です。私は大学学部の卒業が2000年で、就職氷河期に当たり、就活に苦労していました。そんなとき山口先生から、卒業論文を執筆していた際に「この論文のテーマは修士論文にも広げられる」とおっしゃっていただき、大学院を受験する自信がつきました。
山口先生はその後すぐに定年退職され、私は学部とは別の大学の大学院に進学することになりましたが、あのとき先生から卒論を高く評価していただかなかったら、まず研究者にはなっていなかったと思います。
2人目の恩師は、大学院時代の指導教員であった、廣本敏郎先生(一橋大学名誉教授)です。廣本先生からは研究者として突き詰めて考えていくことを学びました。大学院時代に、厳しく真剣に研究に向き合う指導を受けたことで、徐々に私自身の思考が変容していったのだと考えています。
廣本先生は研究に真摯に向き合う方で、指導も厳格でした。たとえばゼミ生が書いてきたレポートを冒頭の数行読んで「これではいけません」と突き返されるようなこともありました。また論稿の単語ひとつひとつにも「なぜこれを用いたの?」と問い、語句の選択に細心の注意を払わせたりしました。その一方で指導後は必ずフォローをしてくださいました。先生はゼミ生一人一人に真正面から向き合い、弟子を育てるためには決して妥協を許さないけれども、ゼミ生に寄り添って親身な指導を行う教育者でもありました。
そしてこれは伝え聞いた話になりますが、私の大師匠にあたる著名な先生が、かつて「人生で間違えてはいけない意思決定のポイントは3つある」とおっしゃっていたそうです。
「1つ目は結婚。2つ目が就職。そして3つ目は、大学のゼミである。」
その話を聞いたときは少々意外に思いましたが、たしかに考えてもみると、ゼミというのは指導教員から教わる内容や、あるいは同期や先輩後輩といった仲間との切磋琢磨により、自らの価値観が大きく変わる契機になります。実際に、私がそうでした。
以来、私もまたゼミを持つときは、「ゼミが学生の人生を変え得る」という意識を持って指導にあたるようにしています。ゼミを「教員1人にゼミ生多数」と捉えるのではなく、「教員1人にゼミ生1人」がゼミ生の人数分あると考えるようにしています。
ビジネスの世界でも同様だと思いますが、チームの中で、自分が困ったときには、ひとりで考え込まずに、素直にSOSを出したほうがよいと思います。私も大学院のときにはそうでしたが、先輩方に何度もフォローをしていただきました。そして、自分が逆の立場になったときには、進んでメンバーの手助けをしていく。こうした相互扶助が、社会生活の場面でも大切なのだと私は思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。