
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
考え方や価値観が変わるほどの出来事に遭遇したら、それは成長へのチャンス。明治大学の教授陣が体験した人生のターニングポイントから、暮らしや仕事を好転させるヒントを探ります。
「物語を読むことで、個々人の問題解決を導く」というビブリオセラピー(読書療法)の存在を知ったことが、私のターニングポイントでした。
きっかけは、20年ほど前、私が留学していた時に父が突然他界したことです。悲嘆にくれる家族をみて、「この喪失体験から立ち直るのに、文学が有形無形に役立つはずなのに・・・」という素朴な疑問が生まれましたが、そこにぴったりとはまる「何か」がなかなかみつかりませんでした。
悶々としながら、実家の書棚にある一冊の本にふと目を留めた瞬間が、人生のターニングポイントとなります。手にした遠藤順子氏の本に、さりげなく「読書療法」という言葉が記されてあったのです。
「思いは現実化する」とよくいわれますが、まさにそれを体験した瞬間でした。とはいえ、GoogleもAmazonもない時代です。手あたり次第にさまざまな文献を調べて、国内外の研究動向をみてきました。
ビブリオセラピーは、専門家による適切な指示のもとで、読書を補助的手段として使用する療法のひとつで、欧米を中心に発達しました。
最近はより日常的な問題の解決にも実践されており、英国では政府公認になるほど一般に広まっているマインドケアの方法です。私自身も、同セラピーを実際に体験し、その有効性を感じています。
ビブリオセラピーの研究成果をみると、こころをリセットしてくれるだけでなく、 例えば成人ならば “アルコール依存の再発率が低くなる”、お子さんなら“病院の待合室での不安が軽減される” “夜尿症が改善される”ということも報告されています。
問題を克服しようとする時にはノウハウ本も役立ちますが、物語の持つ力はさらに強力です。私小説、ファンタジー、ミステリー、歴史…多彩な顔ぶれが躍動する物語は生きるための知恵の宝庫です。
私の人生は物語に助けられてきました。社会人の方々も日々のストレスにうまく対処し、落ち着いたこころで生きるために、物語を読む習慣をぜひお薦めします。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。