
人生のターニングポイント回り道でも、すべてが自分の糧になる
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【101】
私のターニングポイントは、早稲田大学の演劇博物館で助手として3年勤めたことです。
演劇博物館は、坪内逍遥がシェイクスピアの全戯曲37作品の翻訳を完成させたことを記念して、1928年に設立されました。私はそこで助手として、演劇研究だけでなく、学芸員(キュレーター)や図書館司書の業務も担当していました。
同博物館にはさまざまなコレクションが所蔵されていますが、そのなかには能面や歌舞伎の衣装のような日本の伝統芸能に関する品もあります。また、膨大な数の舞台写真や関連図書といった資料を誇っており、それらの一部の管理もまた助手の仕事でした。
私は2005年に助手として着任しました。それまではもっぱらドイツ演劇の研究をしていたのですが、西洋演劇全般の担当になり、常設展示や企画展示を手掛けました。
当然のように、図書資料はさまざまな西洋の言語のものがあります。それをすべて管理するので、ドイツ語だけでなく、英仏露をはじめ主要な西洋語に通じることを求められました。
また、外国からの訪問があった際、日本の伝統芸能から現代演劇にいたる展示室を英語で案内するのも、たいてい私の仕事でした。
もちろん、能や歌舞伎を専門とされている他の助手の方もいらっしゃるのですが、コレクションの説明をするときは、外国語でアテンドができた私にお鉢がまわってきたのです。
当時の正直な気持ちとしては、日本の伝統芸能は専門外でしたし、ドイツ演劇の研究に集中したいという思いもありました。
しかし、いま振り返ってみると、そうした助手時代の経験が、現在の国際日本学部での研究教育活動につながっていることは間違いありません。
私は現在、同学部で舞台芸術論を担当しており、そこでは日本の演劇の歴史を英語で講義していますが、これは演劇博物館でやっていた仕事がなければ、今ほどうまくできなかっただろうと思います。
つまり、はじめは「こんなはずでは」と思っていたことが、実は、自分を大きく飛躍させるスプリングボードになっていたのです。
生きていくなかで、自分が思い描いた通りには働けないということもあるでしょう。ですが、それも何かの縁だと思って、良い意味で開き直って努力すれば、その経験は必ず無駄にはならないと思います。
回り道のように感じられても、その道のりはすべて自分の糧になる。そう思いながら、日々の仕事に取り組んでみてはいかがでしょうか?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。