
人生のターニングポイント周りの人たちの支えで「挫折」から立ち直ったこと
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【98】
あらためて研究者としての自分の歩みを振り返ってみると、これまでに大きな転換点は二度あったと思います。
私は全然田舎暮らしの経験がない人間でしたが、学生時代にご指導をいただいた先生からの勧めで、今日「コモンズ」(一定の地域に住む人々が資源を共同で所有・管理する共有地)とも呼ばれている「入会(いりあい)」の研究を始めました。
入会は日本の農山村を考えるうえでも非常に重要な概念であり、私も非常に面白く感じながら、現地調査などの研究を進めてきました。
しかし、若いころに自分なりにかなり力を入れて作成した論文が、学会誌でなかなか受理されず掲載されないままあきらめてしまったことがありました。これが、一つ目のターニングポイントで、研究を始めたころの私にとって最初の挫折の経験でした。
いわゆる査読論文が掲載されるまでにはレフェリーと呼ばれる専門家による審査があります。しかし、当時の私の所属する学会では私の意図に学術的な理解は得られませんでした。最終的にはあきらめて、このテーマから一時的に距離を置くことになりました。
それ自体は本当に残念でしたが、同じ90年代の時期、山の中の村でいろいろと調べていると、森林組合などに就職する若い人がどんどん表れているということを別の調査をしながら感じていました。
当時の私はまだ、若者は「都会で華やかな生活をしたい」と思っているに違いないというイメージに囚われていましたが、実際には、自然に囲まれた生活を求めて木こりのような仕事を始めている若者がもう広く現れていたのでした。
「農山村に戻ってきている若者」という現象はその後、特に「田園回帰」のような議論において注目されるようになりましたが、そのことにいち早く気がついて、それを次の研究テーマに据えたことが、もう一つのターニングポイントであったと思います。
前のテーマの論文がなかなか学会で受けいれられない状況のなかで苦しんでいた私を研究室の他のメンバーも知っていたので、新しいテーマで論文を書きはじめたときには励ましてくれたり、論文が掲載されたときにはすごく喜んでくれました。それで私も本当によかったとつくづく思えたことを今も鮮明に覚えています。
もちろん、恩師を含むいろいろな先生方のご指導と励ましに大変勇気づけられ、機会をいただいてきたことは言うまでもありません。正真正銘、周りの方々に支えてもらってこれまでやってきました。
頑張っていても残念ながら報われないことがあるけれど、周りの多くの人の支えがあったからこそ、そこから立ち直ることができました。その経験を忘れずに、常に周りの人々に感謝しながら、自分も人の手助けができるように努力していきたいと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。