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本質を理解することで見えてくるものがある
2024.02.21

人生のターニングポイント本質を理解することで見えてくるものがある

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【57】

私のターニングポイントは、高校で化学を学んだことです。とくに通っていた塾の影響が大きかったと思います。もともと理系の科目は好きだったものの、中学校での理科は赤点スレスレの成績でした。しかし高校に入ると、化学・物理とも常に満点近い点数をとれるようになったのです。

その塾は理系専門のところで、中学の頃は数学だけ習っていたのですが、高校に入ってから化学と物理も教えてもらうようになりました。数学や理科を受験科目として捉えず、学問として教えることがその塾のモットー。公式だけ覚えさせるのではなく、公式の背景や成り立ちまで解説してくれるようなところだったのです。

そもそも中学校までの理科は、学校で教えられたこと丸暗記し、テストで吐き出すような臨み方でした。しかし高校時代の塾では「なぜそうなるのか」という本質の部分まで教えてもらえるようになり、今まで断片的だった知識がつながっていきました。理解できれば当然、アウトプットもスムーズになり、結果的にテストの点数も上がりました。

本質を理解するとどんどん面白くもなり、化学の力でエネルギー・環境問題を解決したいと考えるようになって今に至ります。研究もやはり本質が大事です。たとえば研究で使う装置も、スタートボタンを押して測定すればなにかしらのデータは出してくれます。しかし装置の原理を理解しておかなければ、そのデータが本当に妥当なのか、正しいのかという判断ができません。そこまでできなければ、同じデータを見ても真逆の結論に達することもあるのです。

大学で教える立場になっても、本質を理解してもらえるよう心を砕いています。丸暗記をされると、教えたとおりに訊けば返ってきますが、少し訊き方を変えると答えられないということが少なからず出てきます。とはいえ本質を教えようとするのは大変です。理論を教える場合にも、それがどういう経緯で見つかり、なぜそう言われているのかといった背景まで教えることで、興味をもって理解してもらえたらと願っています。

今の世の中、効率重視ですが、遠回りも悪いことではありません。急がば回れといいますが、本質を見るにはとても時間がかかり、非効率にも見えます。そんなことをしなくても、出てきたものを見ればいいと、多くの人が思うでしょう。しかしそうではなく、とことん向き合うことで、見えてこなかったものが見えてくることがあります。一方、本質を見ていると過信することも危険です。自分自身を常に疑いながら、ものごとを進めていくことも必要なように思います。これは研究だけに限りません。安易に効率を求めるのではなく、遠回りでも本質を見ようと努めること、それが多くのことにおいて大事なのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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