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与えられた環境で必死に努力することも成長の好機
2024.01.17

人生のターニングポイント与えられた環境で必死に努力することも成長の好機

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【52】

私のターニングポイントは、国立研究所で事務職に携わった2年間です。

研究職として就職し、ずっと研究を続けられればラッキーなのですが、多くの研究員はある程度の年齢になると、研究マネジメントを経験します。私も35歳のときにマネジメントをする部署の課長として異動になりましたが、当時の部長が大変厳しい人でした。いわゆるキャリア公務員でマネジメントのプロです。一方私は、事務仕事は全くのド素人。毎日怒鳴られながらの仕事となりました。

一緒に仕事をしてくれた部下は、いわゆるノンキャリのたたき上げで、私よりおそらく20くらい歳上だったと思います。課長の肩書を持ちながらも仕事のできない私のことは、経験が豊富で事務作業を熟知した部下からすれば不愉快この上ない存在だったはずです。下からは激しい突き上げられ、そのことで部長にはさらに激しく怒鳴られるといった日々でした。

好きで課長などやっているわけではありません。早く研究職に戻りたい。髪の毛はみるみる白くなり、体重も一気に20kg増加するほどのストレスに襲われました。研究所の幹部からは、非常に厳しい部署だから、どうしても無理なら伝えるようにと言われてはいました。とはいえ、根を上げるのは単純に悔しかったですし、なんとか役に立ちたい気持ちがあったのでしょう。部下に頭を下げて仕事を教わり、厳しい上司の要求に応えられるよう、がむしゃらに働きました。最終的には、上司も部下も私の仕事をある程度認めてくれるようになり、予定通り2年後には研究職に復帰することもできました。その後、髪は黒く戻り、体重もほぼ元通りになりました。

この2年間は、私にとってとても貴重なものです。親と上司は選べないとよく言いますが、そこで投げ出したり、嘆いたりしているだけでは、何も生まれません。難しい状況であっても一生懸命やっていると、いい関係が築けることもある。仕事もそうで、やりたくない業務であっても、それを通して世の中に貢献できる面だってあります。私自身、この経験を通じて研究への取り組み方にも変化があり、うまくいかないことに直面しても、もう少し視野を広げて別角度から試してみるなど、柔軟に方向を変えられるようになったと思います。厳しかった部長には心から感謝していて、今でも年賀状のやり取りがあります。

「素敵な出来事」が突然空から降ってきて、自分の人生をバラ色に変えてくれる、といったことは通常ありません。やりたい仕事だけをやって定年を迎えられる人なんていないでしょう。与えられた環境のなかで自分にできることを探し、そこにやりがいを探して社会に貢献できるよう努力していく。そのことで人間は成長できるし、見える世界が広がっていくように思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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