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出会いの度に身につけた、心と頭のしなやかさ

楠瀬 博明 楠瀬 博明 明治大学 理工学部 教授

考え方や価値観が変わるほどの出来事に遭遇したら、それは成長へのチャンス。明治大学の教授陣が体験した人生のターニングポイントから、暮らしや仕事を好転させるヒントを探ります。

教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【7】

人生のターニングポイントは数え上げればきりがありません。誰かと出会い、何かを体験するたびに考え方や行動が少しずつ変わり、今の自分になったのだと思います。

そもそも物理学に興味を持ったきっかけは、簡単な法則から物体の運動が予測できることに驚いたことと、大学の友人が物理学の面白さを熱く語ってくれたことから。

物理の研究者になったのは、私の恩師がいかにも楽しそうに研究していて、面白そうな世界だと思ったからです。

大学院生のころに、多くの有名な先生方と触れ合う機会がありましたが、上下関係を気にしないフランクな方ばかりで、まるで子供のような純真な気持ちで研究されている姿と、おおらかに楽しく真理を探求すること、に魅了されました。

さらに大きな転機となったのは、海外での経験でした。ヨーロッパでのホームステイや客員研究員生活では、日本を外から眺めることで、客観的な視点と幅広い考え方ができるようになりました。

いろいろな国から来たユニークな研究者たちと過ごすことで、さまざまな考え方に触れることができました。また、そのような思考にいたった文化や環境を知ることで、極東の島国で培った小さな世界から抜け出し、大きな世界観が得られたように思います。

これは、広い対象に普遍的に適用できる物理学という学問の思想にも通ずるところがあるようです。

日本へ戻ってからは、実験グループとの交流や若手の理論研究者と共同研究を積極的に始めました。実験家の実体に基づいた発想や若手の新鮮な考え方に触れ、忌憚のない議論をすることで、新しい研究が生まれる可能性を感じたからです。

その結果、物質のさまざまな相転移を電子の状態から系統的・網羅的に記述する方法を私たちは見つけました。

これは、物質探索の詳細な地図を手にしたようなもので、それを眺めていると、何が未だに探索されていないか、どこに新しい機能物質が眠っているのか、を検討することができます。

この地図をもとに、最近、未開の地であるミクロなカイラリティの研究に乗り出しました。右手と左手の関係を探るカイラリティの研究は、単純そうで奥が深い。素粒子から生命までが関係するやりがいのある研究であると感じています。

おおらかに何にでも好奇心を持つ、今置かれている立場や状況を一度客観的に見てみる、発想の異なる人と仕事をする。過去に安住せず、それらを実践してみることで、面白い人生が拓けてくるのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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