
人生のターニングポイント子どもを持って実感した、生き方を選べる大切さ
教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【13】
私のターニングポイントは、「子どもが欲しい」と思った時です。
20代は研究者を目指してスキルアップを第一に過ごし、30歳になって結婚をしました。しばらくして「そろそろ子どもを」と考えたのですがなかなか叶わず、病院へ行くと「自然に授かるのは難しい」という診断でした。
仕事を全力で続けたかったのですが、30代はずっと不妊治療を優先させる生活が続きました。
幸いにも子どもを授かることができましたが、その後は子育てをしながら働くことの難しさを痛感しています。
週末の学会に行くと「今日お子さんはどうしてるの?」と聞かれることがあります。私の生活を気遣ってくれる善意の質問である場合がほとんどですが、これは私が女性だから出る質問で、男性に対してそんなことを聞く人はいません。育児は女性がするものという常識が日本にはあるからです。
こうしたジェンダーバイアスは、子育て中の男性に対しても向けられるもので、「子育てのために休む」ことが前提とされる女性とは反対に、男性は「いくら子どもが小さくても休みなく働いて当然」という周囲の期待の中で働き続けなければいけません。
子育てに限らず、社会や会社のために個人が我慢して頑張る日本の常識は世界の常識ではありません。
私は研究のためにドイツやオーストリアに住んだことがありますが、日本と海外では常識や考え方が違うことがたくさんあります。
育児については、例えばベビーカーを押している人が目の前にいたら周りが手伝うことは当然で、協力しない人が責められます。
また、男性も女性も長いバカンスを取りきちんと休むのが普通です。それは、彼らが自分たちの生活を大事にしているからです。
日本でもこれまでの仕事中心の価値観は少しずつ変わってきているようです。
子育てだけではなく病気や介護など個人が持つ事情は様々です。
皆が足並みを揃えるために個人に踏ん張らせるのではなく、それぞれの人の生き方や働き方を尊重することが、この多様性の時代に求められていると思います。
日本の社会人の皆さんに「ドイツに行って」とは言えませんが、もし今の環境が自分に合わないのであれば、少なくとも「こちらのほうが良い」という場所を、自ら選べる人になるべきではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。