
人生のターニングポイント一冊の本を読んだ時、大きく転換した視点
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【31】
ある哲学書を読んだ時が、私のターニングポイントになりました。
私は、どちらかというと読書をする時間よりは運動することを好むような学生でした。大学院でも読むものは修了するための文献ばかりで、振り返ると、本当の意味での読書をしたことがなかったのかもしれません。
助手になって少し時間にゆとりができるようになると、今までの反省もあってか、さまざまな本を読みふけりました。その中で出会ったのが和辻哲郎氏の『風土 -人間学的考察-』という現象学の本でした。
一読した時には意味がわからない部分も多かったのですが、直感的に「この本には自分にとって重要なことが書かれている」と感じ、何回も読み込むうちにその意味が少しずつ理解できたのです。
この本による現象学的な世界の捉え方(解釈)とは、自然科学的な客観性を基に物事を捉えることを保留し、事物(客体)は実体的に存在するのではなく主体や他の客体との関係付けの中で生じる、というものです。
現象学との出会いは「こんなものの見方があるなんて!」という驚きと同時に、今まで私が研究してきた「野外教育」に対する視座を大きく変えてしまうことになりました。
野外教育の一環としてのキャンプの授業を考えてみましょう。それまでなら、私は野外での生活技術の獲得や集団生活での規律の遵守などを達成することにカリキュラムの目標を置いていました。
しかし、現象学的な解釈への気づきを得てからは、授業への視線が変わりました。大事なのは、自然という何が起こるかわからないものと対峙する一人ひとりの経験のあり方に着目することだと考えるようになったのです。
私の専攻が教育という分野だからこそ、用意された問題の正解を求めるのではなく、個人が自らの感覚や身体で経験したことから課題を見つけ出し、解決する能力を培ってほしいと思ったというわけです。
読者の皆さんも、読み進めるのが難しい本だと感じても、そこであきらめず何回も理解しようと挑戦を続けると、それまでは気付かなかった、自分の視点を変えてしまうほどの考え方に出会えるかもしれませんよ。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。