
人生のターニングポイント旅をすることで発見した、新しい「自分」
教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【16】
大学3年生の夏休みに、初めて南米に行ったことが私のターニングポイントになりました。
ブラジルのリオデジャネイロに着いた私は、さっそく街を散策しようと、東京にいる時と同じように財布と鍵をズボンのポケットに入れて出かけました。
初めて経験する南米の都市のエネルギーを体じゅうに浴びながら、見るものすべてが物珍しく感じられ、気もそぞろに歩いていると、突然小さな手がポケットの財布を掴んだのです。
思わず、少年のやせこけた腕を力いっぱい握りながら大声で叫びました。彼は腕を振りほどくと、恨めしそうな目でこちらを睨みつけ、何も盗らずに逃げて行きました。
私はすぐに「街に溶け込まなければ」と思い、地元のサッカーチームのユニフォームを買って着替え、荷物はボロボロの袋にまとめました。さらに人々をよく観察し、身振りや歩き方までも真似をしたのです。
この出来事でブラジルを嫌いになることはありませんでした。逆に日本では群衆の中の一人でしかない私の顔や服装、立ち振る舞いが、地球の反対側ではいかに目立っていたかに興味をひかれたのです。
1か月を超える間、南米諸国を回りましたが、どこの国でも地元の人たちの姿をよく観察し、「どうしたら現地に同化できるか」を考えて行動したことが、それぞれの国への好奇心をより大きなものにしていきました。
さらに、否応なしに「他者」として位置づけられてしまう経験が、後のスペイン語やポルトガル語の習得、ひいては南米の歴史や文化を研究する大きなモチベーションになったというわけです。
旅をすることは、単に未知のものに触れ知見を広げてくれるだけではありません。そこで出会う他者をより深く知ろうとする努力は、翻って自分自身を見つめ直すきっかけになりますし、さらには自身の人格や将来を変えるほどのインパクトを与えてくれるかもしれません。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。