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たった1つの質問が拓いた、研究者への道
2023.04.04

人生のターニングポイントたった1つの質問が拓いた、研究者への道

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【15】

大学1年生のときに受けた講義の中で、ある先生がされた「人権について一番詳しいのは誰だと思いますか?」という質問が、今でも記憶に残っています。

「裁判官ですか。弁護士ですか。それとも学者でしょうか?」という問いかけに、「弁護士かなぁ、でも弁護士だっていろんな人がいるし・・・。やっぱり裁判官か。でも、ここは学者って答えておいた方がいいのかな」などと考えていました。

すると先生が、一言だけ、「人権について一番詳しいのは人権を侵害された人です」と仰ったのです。

よく考えれば当たり前のことです。しかし、そのときの私にはその視点が欠けていました。頭で「人権」を学ぼうとしていたわけです。

人権を侵害される「痛み」について、一番よくわかっているのは、人権を侵害されている当事者です。しかし、当事者の「痛み」は、当事者でない人にはなかなか理解できません。私たちは、基本的に「他人」の「痛み」に対して鈍感だからです。

とりわけ社会的少数者の「痛み」に対しては鈍感になりがちです。「そのぐらい我慢すべきではないか」、「あなたのわがままではないか」、「自業自得ではないか」と切り捨てられやすいのです。

多かれ少なかれ、誰しも少数派になった経験があるのではないでしょうか。そのとき、少数派の「痛み」に対する多数派の鈍感さや傲慢さを感じたことはないでしょうか。

逆に、自分が多数派になったとき、少数派の「痛み」を「取るに足らないもの」として、切り捨ててこなかったでしょうか。

「法を学ぶ」ということが「人権感覚を身につける」ということであり、「人権感覚を身につける」ということが「他人の痛みを自分の痛みとして感じる想像力を身につける」ということであるとしたら、これほど魅力的な学問はないのではないか。そんなことを考えたのが、法学研究者を志すきっかけになっていたように思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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