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外国のある裁判で深まった、税や制度への探究心

加藤 友佳 加藤 友佳 明治大学 経営学部 准教授

考え方や価値観が変わるほどの出来事に遭遇したら、それは成長へのチャンス。明治大学の教授陣が体験した人生のターニングポイントから、暮らしや仕事を好転させるヒントを探ります。

教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【12】

私が大学院生の時、イギリスのある姉妹が、配偶者控除の適用を求めて訴訟を起こしたことを知り、衝撃を受けました。それが私のターニングポイントになったのです。

その裁判の少し前、イギリスでは同性カップルを夫婦とみなし、租税法上も配偶者控除などを受けることができる「シビルパートナーシップ」という制度が導入されていました。

これをうけて、長年同居していた姉妹が、「私たちだって助け合って生きているのだから、控除がないのは差別だ」と、訴えを起こしたのです。

この裁判を知ったことで、欧米諸国の税に対する関心の高さに驚き、さらに税がライフスタイルに深く影響していることに感銘を受けて、私は「税と家族制度」についての研究を始めました。

例えば、フランスは家族政策として子供が増えるほど所得税が減るN分N乗方式を導入しましたし、アメリカの最高裁は、異性カップルに比べ、同性カップルの相続税が高くなるという理由で、同性婚を禁止する法律が憲法違反だと認めました。

これらのことからも、税と家族制度が非常に深い結びつきをもっていることがわかります。

日本でも、同性婚についての裁判がおこなわれているところですが、その中で「同性婚ができなくても経済的デメリットはない」というような主張がされています。

しかし、結婚しないと、配偶者控除が受けられない、というデメリットがあるのです。現在の法制度では、市区町村で導入されているパートナーシップ条例等によって家族になったとしても、租税法上の配偶者にならないからです。

つまり、現状では、同性カップルに租税法上の配偶者となる選択肢が存在しません。

選択肢があるのに選ばないことと、そもそも選択肢がないことは同じでしょうか。様々な生き方がもとめられている現代社会において、税の公平なあり方も考える必要があるでしょう。

日本もグローバル化が進み、ネットからもいろんな情報が入って来るので、多彩な価値観に触れられ、個人の生き方も多様化しています。

皆さんも、生活に深くかかわる税について関心を持ち、一度じっくり考えてみてはいかがでしょう。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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