
人生で影響を受けた人物好きな小説を楽しみながら暮らしや働き方を学ぼう
教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【95】
古典的名作『ジェイン・エア』を著した、19世紀のイギリスの女性作家シャーロット・ブロンテです。
主人公のジェイン・エアは早くに両親を亡くし、彼女を嫌う叔母に寄宿舎学校へ入れられてしまいます。卒業後、家庭教師として働く屋敷の主人と恋に落ちるのですが、何と愛する彼に妻がいることが発覚…。
過酷な運命に翻弄された女性が優しい人々に出会い、最後に恋愛を成就させる姿に、当時大学生の私は、恥ずかしいことに泣いてしまうほど感動しました。
しかし最初は単なるラブロマンスかつ成長物語だと思っていた本作ですが、「私は何に感銘を受けたのだろう」と不思議な気持ちになり、もう一度考えを整理してみることにしたのです。
元々この本は「カラー・ベル」という性別不明の著者名で出されたもの。当時の文学界は男性社会で、女性が物語を書くことは許されません。私は、女性であることを隠してでも書くという仕事を選んだ彼女の強さに気づきました。
するとこれは単なる恋愛物語ではなく、様々な辛い経験を経ながらも自らの意志を貫き、自立して生きる「新しい女性像」を描いた小説であり、そこに感銘を受けたのだと分かりました。
当時の英国は宗教的かつ階級的な制約が強かったので、自由な恋愛も仕事もままなりません。ただしブロンテは過激なフェミニストではなく、病弱な家族を支えながらも「女性も男性のように活動できたらいいのに」と望んでいただけでした。
そこで彼女は、本作において、当時の家庭の規範から逸脱することなく、「女性にも平等な機会を」という思いを主人公ジェインの人生を通して示したのです。
しかも彼女は実生活では鉄道株や国債の投資に関わっていました。その資金は国内のインフラ整備などに使われたため、彼女は間接的ではあるものの、英国の発展に貢献していたと言えるでしょう。
そんなブロンテの人生は、現代女性の生き方にもつながるとは思いませんか。
小説はエンターテインメントとして楽しむだけではなく、知識が膨らみ、視野が広がり、考え方が深まるもの。特に場面を思い描く想像力が養われ、物語の背景を考えることで自らの価値観を見直せます。
How to本もよいと思いますが、有名な小説や一度読んだことのある名作を「大人の視点」で読んでみてください。毎日の暮らしや仕事にきっと生かせるはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。