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時には立ち止まり、待つことをもっと意識しよう
2022.09.22

人生で影響を受けた人物時には立ち止まり、待つことをもっと意識しよう

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【90】

心理臨床家で京都大学名誉教授、さらに文化庁長官も務められた河合隼雄先生です。間接的にはなりますが、今の仕事につながる影響を受けたと思います。

先生のことを知ったのは、著書『こころの処方箋』を大学の先輩から紹介されたのがきっかけです。この頃、青年期特有のアイデンティティの課題に悩んでいましたが、目から鱗の内容にとても救われたのです。

その後、河合先生の考えを大切にしながら、子どもたちに自然体験活動(キャンプセラピー)を実践している指導教員のもとで学びました。

私の専門は体育学・野外教育学ですが、次第にキャンプセラピーで出会った子どもたちをより深く理解したいと思うようになり、働きながら臨床心理を学んで臨床心理士と公認心理師の資格を取得しました。

地域の子どもたちや学生と関わる上で、臨床心理の視点の大切さは日々実感しています。特に重要なのは、河合先生の専門書で学んだ「人の心は“分からない”こと、その人の可能性を信じて“待つ”こと」です。

臨床心理に携わっていると心が分かると思われがちですが、先生は人の心は分からないからこそ、分かった気にならないことが大事だとおっしゃっています。もちろん、常に分かりたいという姿勢でいますが、決めつけて話を進めてしまうと、他の可能性をつぶしてしまうこともありますから。

そして、人は成長したり、変わったりする可能性を秘めています。何から何まで先回りして助けるのではなく、一人ひとりの成長スピードに合わせて“待つ”ことも大切なのです。

一般社会においても、若手を導く際に、可能性を信じて待つことは重要ではないでしょうか。しかし、成果や売上においてスピードが求められる今、待つことは簡単ではないのかもしれません。

アラスカの写真家・星野道夫氏の『旅をする木』には、発掘調査隊の荷物を担ぐシェルパのエピソードがありますが、“速く歩き過ぎてしまい、心を置き去りにして来てしまった”という言葉は、待つことの大切さを教えてくれている気がします。

この感覚は、都市で生活する私たちには想像しにくいかもしれません。特に今は、心も体も置き去りにして仕事を頑張ってしまい、体調を崩す方もいる世の中です。

心が落ち着くまで待つことを意識したり、自然のリズムに合わせて生きてみたり。時にはシェルパのように立ち止まり、人も自然の一部であることを思い出す必要があるのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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