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語彙力を鍛え、言葉の優れた使い手になろう

矢内 賢二 矢内 賢二 明治大学 文学部 教授

歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。

教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【87】

言葉の使い方という点で刺激を受けたのは2人のオサムさんです。

1人目は作家の橋本治先生。私が劇場でプロデューサーをしていた時に出会いました。古典文学や伝統芸能に造詣が深く、小説はもちろん、平易明快・快刀乱麻の時評、評論、エッセイが私は好きでした。

2人目はドイツ文学者の池内紀先生です。出会いは、学生がたった4人しかいなかった大学の教養課程の授業。カフカの翻訳者として有名ですが、旅や温泉、演芸を題材にした軽妙なエッセイの名手でもありました。

お二人とも私がどんなに若気の至りの発言をしても柔らかく受け止め、粋なコメントを返してくださる方でした。それがとても痛快で、視界がパッと明るく広がるような表現ばかり。これが大人の度量というものか、と毎回驚かされたものです。

また、リズムや味わいは違うものの、お二人は思わず知らず記憶に残るような名文の書き手。また雑談の名人でもありました。言葉の解像度が高く、周りの世界を常人の何十倍にも細分化して捉えているような印象がありました。いつもニコニコしながら、実は人や世間を見抜く恐ろしいほどの眼力をお持ちだったのだと思います。

その考えや想いを、一つ一つ的確に丁寧に言葉に置き換えたような表現は、いつも憧れでした。時に人を勇気づけ、時に心臓を突き刺すように辛辣。しかしあくまでも洗練された力強い言葉で、思考や感情を他者と共有されていました。

この分析と表現力の根底にあるのは、すべて言葉です。底知れぬ読書量に裏打ちされた言葉の数々が体の中に蓄積されていたからこそでしょう、お二人が操る言葉の柔軟さと強靭さは実に見事でした。

言葉を操る技術は生きていく上で欠かすことができません。例えば会社でも、会議できちんと反論できなかった、得意先に言いたいことがうまく伝えられなかった、などと夜中に布団の中で悶々とした経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

自分の考えを的確に伝えるために、たくさんの言葉を知っていることは大きな武器になります。言葉の豊かな使い手になるために、本をたくさん読んで、世界や人間を観察する力を養うとともに言葉の財産を増やしていきたいものです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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