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深い洞察力を持ち、特性に合わせて指導しよう
2022.08.23

人生で影響を受けた人物深い洞察力を持ち、特性に合わせて指導しよう

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【85】

私は中学時代から『六法全書』を片手に過ごしていたため、大学に入る頃には一通りの法律知識を得たという自惚れがありました。それを覆してくださったのは、本学の法学部教授だった増田豊先生です。

明治大学入学後、シラバスを見て興味を持った増田先生のゼミに入りました。初めてお会いするゼミの初回で、私は先生が長年主張されてきた見解を批判するという暴挙に出たのです。

非常に浅はかな知識だけで異議を申し立てた“事件”は、今思い返しても冷や汗もの。こんな私に対して先生は反論するどころか、ゼミ終わりに研究室に呼んでいただき、著書である『語用論的意味理論と法解釈方法論』を贈ってくださったのです。

帰りの電車の中で読んでみると、当時の私にはとても理解できない高度すぎる内容でした。

ここでようやく、自分がいかに狭い知識で満足していたかを知ることになりました。同時に、先生の深い教養と洞察力に圧倒され、雷に打たれたような衝撃を受けたことを覚えています。

自惚れていた私を先生は叱責することなく、とても優しく諭してくださいました。もしかすると、著書も私がいずれ理解できると、期待を込めてプレゼントしてくださったのかもしれません。

この“事件”をきっかけに、私も先生のように学問を究める人になりたいと思うようになりました。その後、大学院の授業に参加することを許可され、学部生でありながら最先端の刑法研究の世界に触れることができたのは、研究者としての私の礎になっています。

そして、早期卒業制度を利用して大学を3年で卒業し、早稲田大学大学院への進学を決めた時には、たった一言「いつか明治に戻ってこい」とおっしゃってくださり、とても嬉しかったですね。

私が研究者になった時もすごく喜んでくださいましたし、今まさに、明治大学で教える立場になりました。

あの“事件”は私にとって間違いなく転機になったと思います。教育者になった今、学生が生意気な発言をしてきたら、いったんはカチンとくるかもしれませんが(笑)、何も言わずに本を贈ってくださった先生の対応が私の今後の指針になるはずです。

部下や後輩から生意気な発言があった時、皆さんならどう対応されるでしょうか。成長が期待できる人の特性や能力を見極め、エールを送る大人の対応も一つの方法かもしれません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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