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「知識」と「現場の声」をパラレルに働かせよう

源 由理子 源 由理子 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。

教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【70】

人生の節目節目に影響を受けた人物はたくさんいますが、自分のやっていることはこのままでいいかもしれない、と背中を押してくれた存在として挙げたいのは、『パラレルな知性』(晶文社)の著者・鷲田清一さんです。

この本は、「3.11」を契機に専門家に対する信頼が崩れるなか、臨床哲学者の鷲田さんが知性のあり方を考察した内容で、専門家(研究者)と市民との関係性について大変考えさせられました。

冒頭に、私が引き込まれたエピソードがあって。
ある火山の爆発が起きたとき、火山学のベテランの専門家は爆発を予知できなかったものの、地域住民から専門家が非難されることはなかったそうです。なぜかというと、そのときまでに培っていた信頼関係があったから。

自分たちのためにこんなにも一生懸命調査をしてくれている人はいないので、予知できなくても仕方ない、と話していたというのです。正しい答えよりも大切なことがあるのだと感銘を受けました。

また、本の中で印象に残っているのが、「たとえ専門家であっても、その人が持っている知識や経験が現場で適用しないことがある」「専門知はその限界を正確に掴んでいなければならない」「自分の判断を一旦棚上げする用意がなければプロフェッショナルの知ではない」という言葉。

私は大学教員になる前は評価論の実践家として活動し、教員になってからは現場と研究を行き来する役割が求められているのではないかと考えているときに読んだ本だったので、とても勇気をもらいました。

現場ではなかなかできないトライアル的な研究を大学で重ね、それを現場に戻し、フィードバックをもらいながら形にしていく。そして可能であれば政策や現場の実践に活かすところへ繋いでいく、というのが私の目標です。

私のような研究者はもちろん、ビジネスパーソンの方にとってもこの本は耳が痛かったり、考えさせられたりするところがあると思います。

自分の蓄えてきた知識や経験値を一旦棚上げし、実際の現場で求められていることを柔軟に拾い上げる。このように2種類の知性をパラレルに働かせることが、今の時代に求められているのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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