
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
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辻清明先生の論文「行政における権力と技術-現代行政学の理解のために」は、公務員制度を研究する私の原点です。
この論文に出合ったのは、大学院への進学を考えていた頃。行政学がどのようなものかを理解するために手に取りました。
読んでみるとこれがとても難解。当時はあまりにも意味が分からず、別紙に書き写して暗記したほど。
例えば今のコロナ禍では、コロナの専門家と政治家の間にはすれ違いや緊張感があります。医学の分野では正しいことでも、政治の分野では影響が大きすぎたり、お金がかかりすぎたり。
行政では、技術的(客観的)には正しいことが、権力的(政治的)には当てはまらない。こういったことはコロナに限らず起こりますが、それはなぜ起こるのか、矛盾する中でどう両立していくのか、ということが書かれていました。
当時の私は、シンプルに技術と政策は結びつくと考えていたため、矛盾や対立があるとは思いもしませんでした。こうした難しい一面を知り、行政は研究する余地があると実感したのです。
辻先生から直接指導を受けたことはありませんが、門下生だった西尾勝先生と西尾隆先生から学ぶ機会を得て、私は行政学の研究の道に進みました。
初心とも言えるこの論文の書き写しですが、実はその存在をすっかり忘れていまして……。昨年、以前勤めていた大学から明治大学に移る際、研究室を整理していたら見つけたんです。
とても真面目に書き写していたことに驚くと同時に、学生時代は純粋に物事を考えていたことを含め、当時のことを鮮明に思い出しましたね。
自分の原点となる出来事は、普段は忘れていても頭の片隅に残っているのではないでしょうか。そして、何かをきっかけに当時を思い出したなら、改めて今の自分と向き合ってみるのもいいかもしれません。経験を重ねた今だからこそ、新たな気づきが得られると思いますよ。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。