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本当に大切なものを問い直し、働く指針にしよう

三和 裕美子 三和 裕美子 明治大学 商学部 教授

ときに人生の指針となり、仕事のヒントとなり、コミュニケーションツールの一助となる「読書」。幅広い読書遍歴を誇る明治大学の教授陣が、これからの社会を担うビジネスパーソンに向けて選りすぐりの一冊をご紹介。

教授陣によるリレーコラム/40歳までに読んでおきたい本【30】

坂本光司『日本で一番大切にしたい会社』シリーズ(あさ出版)
ミヒャエル・エンデ『モモ』(大島かおり訳・岩波書店・1976年)
河邑厚徳+グループ現代『エンデの遺言「根源からお金を問うこと」』(NHK出版・2000年)

『日本で一番大切にしたい会社』は、“人を幸せにする経営”を行っている中小企業を取り上げた、現在6巻まで出版されている人気シリーズです。

会社は経営者や株主のものではなく、その企業に直接かかわるすべての人々のものであり、社員が幸福になれてはじめて顧客に喜びを提供することができる、と著者は主張しています。

実際に私も本書に登場する企業を訪問したことがありますが、本当に素晴らしいです。たとえば、九州の廃棄物処理会社・障がい者つくし更生会では、障がいを抱えている社員のご両親が「自分のこどもがこんなことをできると思わなかった」「会社に入って技術的にも、人としても成長させてもらった」と大変喜んでいらしたのが印象的でした。

また、長野県の寒天メーカー、伊那食品は48年間増収増益を重ねてきた企業です。会長塚越寛さんは、トヨタ自動車の社長も師と仰ぐ方で、『年輪経営』という有名な本も出版されています。

香川県の徳武産業は、お年寄りが転ばない介護シューズを作り、多くの方から喜ばれかつ安定した利益も出し、従業員を大切にしている企業です。

本書で紹介されている企業はそれぞれ違う業種ですが、人を活かして社会に貢献し、なおかつ利益を上げるのが不可能ではないことを実証しています。

本を読むのと同時に、もし機会があれば現地に行って見学することをおすすめします。一般の社員の方をはじめ、経営者の方にも参考になるのではないでしょうか。

ミヒャエル・エンデ作の『モモ』は児童文学の名作といわれていますが、私はこの本をお金と銀行を考えるに当たってぜひ読んでいただきたいと思います。

物語のなかで“時間貯蓄銀行”と称する灰色の男たちは、自分たちに余分な時間を預ければ、利子がついて返ってくると説明し、人々から時間を奪います。人々は時間を節約することが素晴らしいと信じ込み、あくせく働きますが、幸せにはなりません。

これは、いまのお金のシステム、利子の社会を描いているのです。たとえば、10人しか人がいない村に銀行がやって来て10万円ずつお金を貸し、「来年10パーセントの利子をつけて返してね」と言ったとします。

するとみんなは成長を余儀なくされます。利益を上げられなかったらイス取りゲームと同じで誰かからお金を取ってこないといけません。

いまは低成長の時代で企業の業績が上がらないため、株主は従業員のコストカットや、配当、貯蓄などで穴埋めすることになります。利子は成長を前提としていますが、成長しない社会の中では他から取って来るしかない。それが利子の世界です。

最後にご紹介する『エンデの遺言』は、NHKで放送されたドキュメンタリー番組をもとに、エンデがどのような意図で『モモ』を書いたのか、“お金”と“利子”をキーワードにまとめられています。

『モモ』と一緒に『エンデの遺言』を読むことで、現代社会の問題に理解が深まることでしょう。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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