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#4 胃酸でも死なないピロリ菌を乳酸菌が殺す?

明治大学 農学部 准教授 佐々木 泰子

弱酸の乳酸の殺傷力が強い理由は、酸性条件では非解離といって疎水性になるから

前回解説したブルガリカス菌は、桿菌(ラクトバチルス)という種類の乳酸菌です。このラクトバチルスの中には、酸に強くヒトの胃の中でも生きていられるものがいます。そして、胃の中で生息し、胃炎や胃潰瘍などの原因となるピロリ菌を殺すことができるのです。不思議な現象のように見えますが、その理由は強い酸である塩酸が常にイオン化している状態であるのに対して、乳酸はpH3.9で半分が解離(イオン化)し、それ以下のときには殆どが非解離の状態で存在するためです。みなさんもご存じの通りpH7.0が中性で、数値が低くなるほど酸性が強くなります。つまり乳酸は、通常pH2.0〜pH3.0と強い酸性である胃の中にいるときは非解離で、その状態のとき乳酸は疎水性のために、塩酸のようにイオン化すると通り抜けることができないピロリ菌の細胞膜でも、通り抜けて中に入ることができるのです。しかも、菌体の内部は中性なので、そこで乳酸は解離を起こしプロトン(水素イオン)が発生し、菌体内のpHが急激に低下します。このプロトンは攻撃力が強く、菌体内部を破壊し、ピロリ菌はプロトンを外に汲み出そうとして疲れ切ってしまい、やられてしまうのです。すなわち、塩酸よりも弱酸の乳酸の方が殺傷力が強いという現象が起きるのです。

胃酸を通り抜けて腸に達した生きた乳酸菌は、そこでも乳酸を出すことによって腸を刺激して便通を良くすると考えられます。しかも、ヨーグルトは、厚労省の乳等省令により発酵乳として定義されていますが、その規格により、1ミリリットルに1000万以上の生きた乳酸菌がいることと定められている特殊な食品です。つまり、市販されている125gの小さなカップのヨーグルトの中には、乳酸を作り出す生きた乳酸菌が12億5千万以上も入っていることになります。こうした生きた乳酸菌が腸内環境を整えることは、腸の健康だけでなく、人の身体全体を健康に導くことに繋がるのです。

次回は、人の免疫力を高める腸の機能について解説します。

#1 乳酸菌は伝統的な発酵食品の「影の主役」
#2 乳酸菌を使うと美味しくなるのは、なぜ?
#3 牛乳はどうやってヨーグルトになるの?
#4 胃酸でも死なないピロリ菌を乳酸菌が殺す?
#5 乳酸菌は人の免疫力を高める?
#6 ヨーグルトは薬になる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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