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理想、現実、中庸、異なる視点を大切にしよう

明治大学 文学部 教授 大畑 裕嗣

ときに人生の指針となり、仕事のヒントとなり、コミュニケーションツールの一助となる「読書」。幅広い読書遍歴を誇る明治大学の教授陣が、これからの社会を担うビジネスパーソンに向けて選りすぐりの一冊をご紹介。

教授陣によるリレーコラム/40歳までに読んでおきたい本【4】

中江兆民『三酔人経綸問答』(桑原武夫・島田虔次訳校注/岩波文庫・1965年)

中江兆民によるこの書は、洋学紳士(理想主義)、豪傑君(現実主義)、南海先生(中庸)の3人が日本の針路について酒を飲んで語り合う形式をとっています。私はこの中だと南海先生ですが、紳士と豪傑君に共感される方はたくさんいたと思いますし、現在もいることでしょう。理想主義、現実主義、中庸と、3つの視点をもちながら考えていくことが必要なのです。南海先生はただ酒を飲んでいるだけに見えるかもしれませんが、中庸の考え方が社会の多数派をつくっていくような形で進めていかないと、この国はよくならないのではないかと思います。

本書では民主主義と立憲主義に関する議論が中心になっていますが、明治期のはじめのことだけでなく、紳士、豪傑、南海の3つの選択はいまもこのままの形で残っています。2015年の安保法成立以来、立憲主義の再評価ということで憲法問題などは改めて考えなくてはいけない問題として表面化しており、長期的に見て日本人の生き方を考える上で不可欠な一冊であるといえます。

また、「左派は何を考えているの?」「右派は何を考えているの?」「落としどころはどこ?」など、互いの主張について考えることも大切です。紳士、豪傑、南海は3人で討論していますが、いまは同じ考えの人同士で固まってしまい、違う考えの人と意見を交わすこと自体をしていません。その意味でも本書は非常に示唆に富んでいます。私は最初は学生時代に桑原・島田訳を読んだのですが、光文社古典新訳文庫からモダンな日本語訳も出ているので、いまの若い方はそちらを読まれてもいいかもしれません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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