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公的年金制度の仕組みについて、きちんとした議論をすることが必要

前回は、日本の公的年金は、すでに150兆円もの余剰金があり、さらに300〜400兆円まで積み立てる計画で、高い保険料が徴収されていることを説明しました。ところが、給付の方は、どんどん減らしていく計画です。それが、2004年に導入された「マクロ経済スライド」です。年金の給付額はインフレに連動してアップさせる仕組みだったのですが、逆に年に約1%ずつカットしていくという仕組みにしたのです。

私たちの年金は、そうやって下げなければならないほど、いま高い水準なのでしょうか。OECD(経済協力開発機構)が、所得代替率の国際比較を公表しています。所得代替率とは、厚生年金において、夫婦二人の年金受給額が、現役世代の男性の平均月収の何割にあたるのかを示す数値です。カナダがほぼ半分の50.6%で、ドイツは55.3%。フランスは71.4%で、イタリアは78.2%に達しています。ところが日本は40.8%で、自己責任の国といわれるアメリカの44.8%よりも低いのです。もちろん、所得代替率は、分母となる現役世代の月収が低ければ、高くなるという数字のマジックはありますが、その国での年金世代の生活しやすさを測る目安になるでしょう。日本の年金給付額は、現在でも決して充分ではないのに、これをさらにカットしていくというのです。

さらに、基礎年金(国民年金)にも問題があります。第1号被保険者が受取る公的年金は基本的に国民年金(基礎年金)だけです。国民年金(基礎年金)は、いまでも年79万円ほどですが、実は、この額は生活保護の支給額を下回っているのです。これをさらにカットするということは、格差拡大、貧困高齢者の増加につながることは明らかです。すると、第1号被保険者の人たちにとっては、若いときに年金の保険料を払わず、高齢になってからは、国民年金よりも支給額が多く、医療費が無料になったり、家賃の支給など、各種の扶助がある生活保護を受けた方が暮らしやすいということになります。個人の積立てがある公的年金と違い、全額国庫負担となる生活保護が増えれば、それは国家財政上の問題となりかねません。

あらためて言いますが、こうした事実はあまり報道されていません。議論もされていません。いたずらに、年金破綻のイメージを煽っているだけのように思えます。なぜ、これほどの余剰金が必要なのか、なぜ、それを国債で運用するのか、それほどの余剰金がありながら、なぜ給付額を減らそうとするのか、生活保護の支給額よりも少ない国民年金であって良いのか。事実をしっかり見つめ、議論することが必要だと思います。

#1 そもそも公的年金の仕組みってどうなっているの?
#2 年金保険料は払い損になる?
#3 日本の年金制度は破綻する?
#4 年金の資金は余っているの?
#5 年金の余剰金は増えるのに給付額は減る?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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