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#2 一般のスポーツドリンクに効果はある?

浅賀宏昭 浅賀宏昭 明治大学 商学部 教授

ほとんどのスポーツドリンクは競技で勝つ目的でつくられていない

食品のパッケージなどに表示されている「原材料名」には、聞き慣れない化学物質の名前が並んでいることが多いので、わかりにくいと感じている人も多いでしょう。しかし、覚えておくと見方が大きく変わるポイントがありますので、それをお話ししましょう。原材料名の表示の順序の原則です。

原材料名はいい加減に並べられているのではありません。原則として、大量に使われているものほど先に表示されているのです。つまり、その原材料が何番目に表示されているかで、配合の多少が推測できるのですね。例えば、一般のスポーツドリンクのうち、筋肉の保護や再生などに寄与する機能で知られる分岐鎖アミノ酸のイソロイシン、バリン、ロイシンなどが含まれている商品です。これら分岐鎖アミノ酸は、最後に記されていることが多いのではないでしょうか。高価な原材料のため、少ししか配合されていないためです。一方、筋肉維持に役立ち、歩く力をサポートとはっきりとうたっている機能性表示食品扱いの商品では、ロイシンが多く配合されているため、前の方に記されています。

また、一般のスポーツドリンクの場合は、先ず、糖分として「果糖ブドウ糖液糖」もしくは「ブドウ糖果糖液糖」が表示されているかもしれません。これは、砂糖を加水分解して果糖とブドウ糖の混合物に変えたもので、砂糖より少量で同等の甘みが得られるため、低コストかつ低カロリーにできるメリットがあります。しかし実は、果糖は肝臓で脂肪に変換されやすく、エネルギー源にはなりにくい特徴があるのです。つまり、スポーツ時に飲むことを考えればブドウ糖だけの方がより機能的なのですが、甘味が低下する、あるいは製造コストがかかるなどの理由で、避けているのだと思われます。「果糖ブドウ糖液糖」と「ブドウ糖果糖液糖」の表示の違いもあります。この場合も先に記されている方が量的に多いので、エネルギーを速やかに補給したいなら、「ブドウ糖果糖液糖」表示のものを選ぶべきでしょう。

ここまでお話してきたことからもわかるように、いわゆるスポーツドリンクの商品は、それらのほとんどが競技で勝つことを第一の目的として成分が調整されたものではありません。要するに、健康のために(体脂肪を減らそうと思って)スポーツをする一般人に訴求性の高い商品としてデザインされているということです。競技で本気で勝ちたいと思っている人は、スポーツドリンクを手作りしたり、市販のものに成分を足したりした方が良いかもしれません。マラソンのスペシャルドリンクがそのいい例でしょう。

ですから、スポーツをする時に、市販の一般向けスポーツドリンクでいいのか、保健機能食品のドリンクを選ぶべきか、あるいは自分で工夫したものを飲むかは、目的次第で変えることも考えた方が良いかもしれません。そして判断の材料は、食品の表示の「原材料名」欄から読み取れることがあるということです。

次回は、食品の成分が身体に機能する仕組みの例について紹介します。

#1 トクホって、何がすごいの?
#2 一般のスポーツドリンクに効果はある?
#3 カルニチンを摂ればやせられる?
#4 ビタミンEはたくさん摂れば効果も大きい?
#5 トレハロースが人類の夢をかなえる?
#6 コラーゲンはやっぱり身体に効く?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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