
2023.01.27
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
世の中の気になる出来事をピックアップし、明治大学の教授陣がその専門的な視点からみなさんへのアドバイスを連載形式でお届けするトレンドウォッチ。今回は教育の現場について取り上げます。しばしば現場では、特別な支援が必要な子どもたち、特に、発達障害のある子どもたちに対して、学校・保護者・専門家がどう向き合えばいいのかが議論されます。今回は臨床心理学・教育相談が専門の、明治大学文学部、伊藤 直樹教授にお話をお伺いしました。
Bさんは読むのは苦ではないのですが、書くことになるとうまくいかず、親や先生から「もっと丁寧にノートを取るように」と、ずっと言われてきました。
板書はもとより教科書や辞書を見ても漢字をうまく書くことができません。小学校高学年になると、テストは毎回のように0点に近い状態になりました。親からは、もっと勉強するようにと叱られ、クラスでは友達にバカにされる毎日で、だんだんと学校生活が面白くなくなっていきました。そして、しだいに授業中の立ち歩きが増え、注意する先生に暴言を吐いたり、「自分なんかいなくても同じだ」と投げやりなことを言ったりするようになっていきました。
この様子を心配した担任が発達支援アドバイザーに相談しました。発達支援アドバイザーは担任とともにBさんの授業の様子を観察したり、提出物の文字や作文の文章を見せてもらったりしました。そして、Bさんには文字を書くことに固有の難しさがあると判断し、保護者と面談し、そのことを伝えました。Bさんが書き取りが苦手なのは、本人が怠けているからではないこと、日々の叱責よりはむしろ丁寧なサポートが必要であることを理解してもらったのです。
その後、Bさんは週に2回、特別な支援を受け、苦手な漢字を中心に書き取りの練習を行うようになりました。Bさんは家庭でも学校でも叱られることが減り、また、授業でも苦手な書き取りを自分のペースで進められるようになったため、学校生活が楽しくなっていきました。Bさんは、中学では特別支援学級を利用しつつ、3年間充実した学校生活を送ることができました。(事例は模擬的事例です。)
最終回は、子育てに際し、保護者に心がけてほしいことを紹介します。
#1 特別な支援を必要とする子どもとは?
#2 学校はどのような取組みを行っているの?
#3 専門家が加わることで、子どもはどう変わる?
#4 友だち関係のつまずきから不登校になった中学生のAさんへのサポート
#5 LDについての理解が深まり、学ぶ意欲が高まった小学生のBさん
#6 子育ての悩みや不安の解決のために
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。