明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

#3 次の世代を助けるために、高齢者にお願いする応能負担

加藤 久和 加藤 久和 明治大学 政治経済学部 教授

世の中の気になる出来事をピックアップし、明治大学の教授陣がその専門的な視点からみなさんへのアドバイスを連載形式でお届けするトレンドウォッチ。今回は少子高齢化がテーマです。かなり以前からこの問題は大きく取り上げられていますが、果たして我々は普段の生活の中で、どの程度この問題を意識しているでしょうか?今回は、明治大学政治経済学部の加藤久和教授に、少子高齢化社会に向けて我々一人ひとりが何をすべきなのか、分かりやすく解説していただきました。

高齢化社会の社会保障を維持するために応能負担は避けられない

2016年12月に年金制度改革関連法案が可決されました。現役世代の賃金が下がれば年金支給額も引き下げられる内容が盛り込まれていることから、「年金カット法案」などと呼ばれていますが、改革の目的は将来世代の年金水準の確保です。決して、年金世代に痛みを押しつける施策ではありません。また同じく、医療と介護保険制度の見直しも決りました。これによって一定の所得がある高齢者の負担が増えることになります。こうした動きによって、いわゆる「シルバー民主主義」が見直され始めたといわれますが、単純に高齢者か若者かというオルタナティブ(二者択一)ではありません。高齢者の中にも貧富はあるし、若者の中にも貧富はあります。世代に限らず貧困の状況にある人たちには支援を継続しつつ、高齢者でも所得の高い人たちには応能の負担をしてもらおう、という考え方が一連の改革の基本にあるのです。これは日本だけの動きではありません。カナダなどでは、高所得の年金受給者は一度受取った年金を国に戻す、クローバックという制度が取り入れられています。

高齢化が進むいまの社会の中で、高齢者の貧富の格差は非常に大きくなっています。貧困状態にある高齢者への支援を続けつつ、次の世代へ借金を増やさないためには、いま高所得の高齢者の人たちから、次の世代を助ける感覚をもってもらいたいと思います。みんなが同じ負担を分かち合うのが難しいときこそ、能力に応じた、持っているものに応じた、負担をしていくことが、公平な社会を創っていくために必要だと思います。

次回は、少子高齢化社会における地方創生について考えます。
 

#1 少子高齢化が進むと社会はどうなる?
#2 少子化対策のための予算を増やそう!!
#3 次の世代を助けるために、高齢者にお願いする応能負担
#4 地方創生にも痛みがある 一人ひとりが痛みの覚悟をすべき時代

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

リレーコラムの関連記事

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.3.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

  • 明治大学 商学部 教授
  • 浅井 義裕
興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.3.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
ブログを書いて開けた研究者の道

2024.3.6

ブログを書いて開けた研究者の道

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
法科大学院で見た学生の姿が、研究者人生を変えてくれた

2024.2.28

法科大学院で見た学生の姿が、研究者人生を変えてくれた

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
本質を理解することで見えてくるものがある

2024.2.21

本質を理解することで見えてくるものがある

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事