軽減税率をきっかけに始まる大きな変化
日本に消費税が導入されたのは1989年で、導入して27年になりますが、事業者は別として、消費税の仕組みをしっかり理解している消費者は意外と少ないのではないでしょうか。例えば、商品の購入の際、商品の代金とともに店に払っている8%の税額を、店はそのまま納めていると思われがちですが、そうではありません。消費税の優れた仕組みは、税の累積(カスケード)を防ぐために、売り上げにかかる税額から仕入れにかかる税額を控除することにあります。ところが、この仕入税額控除を算出する方法として、諸外国のようなインボイス方式ではなく、日本では帳簿方式がとられています。このことが、消費税が収入と支出の差額に対する税であるとの誤ったイメージを生み出しています。
例えば、事業者Aが事業者Bから700で仕入れた物を1000で消費者に販売すると(この設例の価格はすべて税抜きであると仮定します)、1000-700=300に税率の8%を乗じた24が納税額になります。事業者Bは事業者Cから500で仕入れていれば、700-500=200に8%を乗じた16が納税額。事業者Cは原料生産者で仮に仕入れかないとすると、500-0=500に8%を乗じた40が納税額になります。この三者が納めた税額24+16+40=80が、商品を1000で購入した消費者が支払う消費税80に相当するのです。
しかし、この算出方法には問題がありました。もし、事業者Bが免税事業者であった場合、事業者Aは仕入れ額に税額が含まれていないので仕入税額控除はできず、その分、納税額は増えるべきです。しかし、この帳簿方式では、すべての仕入れに税額が含まれているとみなすため、こうした免税のことは考慮されません。つまり、税額が含まれていない仕入れにおいても税額控除が適用され、いわゆる益税が発生することになるのです。
これに対して、欧州などの諸外国ではインボイス方式をとっています。これは、個々の取引で税額を明記した請求書(インボイス)を発行し、その税額に基づいて、事業者が納税する税額を算出するものです。先述の例で見ると、事業者Aの売り上げに対する税額は1000に8%を乗じた80。そして、仕入れ先の事業者Bから発行されたインボイスに明記された税額は700に8%を乗じた56なので、80-56=24が事業者Aの納税額になります。事業者Bは、事業者Cの500に8%を乗じた40のインボイスを基に、56-40=16か納税額になります。事業者Bが免税事業者であった場合、インボイスは発行されないので、事業者Aは仕入税額控除ができなくなります。インボイス方式であれば、益税は発生しにくくなるわけです。
2017年の軽減税率の導入にともなって、インボイス方式が2021年から導入されることになりました。軽減税率がインボイス方式導入のきっかけになったのは、帳簿方式では複数税率に対応するのが事実上困難なためです。いわば瓢箪から駒のような形で、複数税率に対応しやすいインボイス方式が導入されることになったわけです。しかし、税の公正さや透明性さらには事業者間の競争中立性という意味で、インボイス方式の導入は最大のメリットになるといえます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。