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「自己組織化」の研究が目指しているもの

末松 J. 信彦 私は、様々な生物の活動や行動において、一定の規則や秩序が自然に生じる「自己組織化現象」について研究しています。例えば、アジの渦巻き状の群泳、雁のV字編隊飛行など。それらは特定のリーダーの指示による行動ではなく、群れの中に自然に生じる秩序構造です。この生物が起こす自己組織化は無生物で再構成することが可能であり、それによって、その自己組織化の本質的な部分を抽出することを、私は目指しています。
 このような実験があります。ミドリムシの培養液を薄い容器に閉じ込め、下から強い光を当てると、培養液に緑色の斑点模様が現われます。ミドリムシの密集部分と、そうでない部分が極端にできるため、こうした斑点模様が現われるのです。これは生物対流という現象です。ミドリムシは強い光を避けるために、下から光を当てられると液の上に移動します。しかし、ミドリムシの身体は液より重いため、上に長くいることができず沈んでしまいます。すると、強い光を避けるためにまた上がっていきます。これを繰り返すうちに、自然に密集部分とそうでない部分が生じ、ミドリムシはその中を周期的に泳ぎ続けます。ミドリムシが集まるほど影ができ、強い光を避けやすくなります。つまり、彼らは周期的に変化する光環境を自分たちで作っていることになるのです。いま、斑点模様の形成が、一個体のミドリムシの生体反応とどう関係しているのかについてアプローチしています。ミドリムシの自己組織化現象が、彼らの光合成の効率を高める要因につながっていることがわかれば、そこから効率的な光合成の構造を得ることも期待できます。
 効率化というと、有用性を重視した非人間的なシステム化を想像しがちですが、自己組織化を研究する私にとって、効率化とは生物が生き抜くために、長い期間をかけて獲得したシステムのことでもあり、その意味でとてもナチュラルな現象です。ミドリムシの対流にも、彼らが効率的に生きるシステムが内在しているかもしれません。その効率的な存在の仕組みが、自己組織化を研究することで見えてくる可能性があります。そこから学び得たものを人工的に再構成することで、エネルギー問題に新たな答えを出すことが期待できるのです。

真に持続可能な社会を実現するために

 私たちは植物の光合成を学び、その仕組みをほぼ明らかにしました。しかし、一方でその本質を捉え得ているかは疑問です。例えば、植物の光受容器の配列には一定の規則性がありますが、その理由は解明されていません。植物が現代まで生き延びる術となったであろう、光合成に関わる自己組織化の本質に迫り、彼らが獲得した効率性に視点を向けることは、私たちにとって新たな可能性を見出す機会となるはずです。先行した自然エネルギー開発が力押しの方策に走ったことを反省点とし、ミドリムシをはじめ、植物の光合成の構造に学び、その効率性を解明して取り入れていくことはとても重要です。
 生物がもっている自己組織化現象は、私たちがようやく目を向け始めた、真に持続可能な社会を実現するための示唆に富んでいるのです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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