農家、企業で環境への配慮が進まない背景にある、制度と実際の判断とのギャップ
農家や関連企業においても、「意識と行動のギャップ」から環境負荷を抑える技術や制度が十分に浸透していない状況があります。
農業分野では、栽培方法や肥料の使い方によって環境負荷が大きく左右されることが知られており、行政からは補助金の整備とともに情報やルールの周知が行われてきました。しかし、農家にとって、これまでとは異なる方法を導入することには大きな経営リスクが伴います。収量が減るかもしれないという懸念や、周囲がやっていないことを導入する抵抗感、導入にかかる時間的・人的コストといった要素が行動変容のハードルとなり、結局、「最も安全そうな現状維持」が選ばれることが多いのです。
こうした背景を踏まえて、私は滋賀県のフィールドで実験を行いました。琵琶湖を擁する滋賀県は、日本でもとくに農業における環境意識が高いことで知られています。その滋賀県においてすら地球環境に配慮した農法は十分に普及していないということで、行動経済学による大規模な介入実験を行うことになりました。
実験では、対象となる農家を集落ごとに3つのグループに分け、それぞれに「周囲でどれだけの人が環境に優しい農法に取り組んでいるかという情報」「地球温暖化によって米が劣化しているという事実」「技術的な心配事を軽減させる情報」を伝えてその後の行動変容を追跡しました。その結果、最も行動変容につながったのは、社会規範に訴えた1つ目情報でした。周囲と水源を共有しており相互依存性が高い、日本の農業地帯ならではの結果と言えるかもしれません。
この実験結果から、補助金メニューを用意するだけでなく、情報の伝え方を工夫することが政策の実効性に大きく影響することが示唆されました。
同様の事例は、肥料を製造販売する企業にも見られます。肥料の品質や表示に関するルールは長年にわたり整備されてきましたが、それでも表示ミスや報告の遅れといった問題が後を絶ちません。重要なのはこれらの多くが「ルールを知らないから」や「意図的に違反しているから」では説明できない点です。日々の業務の中での「後回し」「自社だけは大丈夫だという思い込み」「罰則の現実味を感じにくい」といった人間らしい判断の積み重ねが、結果として、想定されていた制度運用との齟齬をきたしてしまっているのです。
これらの研究が共通して示しているのは、制度やルールそのものの根拠や目的が間違っているわけではないという点です。十分な実効性が発揮されない原因は、「制度が、人の実際の判断プロセスを前提に設計されていない」ことにあります。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
