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2025.04.03

環境負荷が小さい製品を生みだすカギは、設計段階にあり

環境負荷が小さい製品を生みだすカギは、設計段階にあり
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20世紀後半以降、皆さんもご存知のとおり、年々環境問題が深刻化しています。2015年に採択されたパリ協定を受けて、各国が2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の達成をめざしています。このような背景で、メーカー各社には環境負荷の低減に向けた取り組みが強く求められています。この問題に適切に対応するためには、原材料調達の段階から、製造、使用、廃棄やリサイクルまでを含めた製品のライフサイクル全体への配慮が必要となります。

電子廃棄物の増加に伴い、「修理する権利」が世界的に広がりつつある

井上 全人 製品のライフサイクルにどれぐらい環境負荷があるのかを測るLCA(ライフサイクルアセスメント)の概念が始まったのは、1970年代です。1990年代には、製品やサービスの原料調達から、生産、流通・消費、廃棄・リサイクルまで含めたすべてのライフサイクルで生じる環境負荷を定量的に評価する手法がISOの国際規格として整備されました。

 環境負荷を低減するための課題として、いま注目されていることの一つに、スマートフォンや家電製品の短寿命化に伴う電子廃棄物(e-waste)の増加があります。技術が急速に発展し、次々と新商品が市場に投入されることによって、新しい商品がより魅力的に感じられ、消費者は買い替えの誘惑に負けやすくなります。近年では、ユーザー自身が容易にバッテリー交換できるスマートフォンは減少しており、メーカー対応による交換が必要な場合が多く、OSのサポートを受けられる期間が一定期間で終了してしまうなど、物理的に買い替えを迫られる状況に陥ることも多々あります。結果、買い替えまでのスパンが短くなり、e-wasteが増えているのです。

 2022年には、世界で5800万トンものe-wasteが出ています。これらの多くは発展途上国に輸出され、適切な処理をされず廃棄されているのが現状です。e-wasteには、金、銀、銅、パラジウムなどの貴金属やレアアースが含まれ、その総額は1年間で数兆円規模と推計されています。しかし、リサイクルされているのは、なんと2割ほどしかなく、適切にリサイクルされていないことも大きな問題となっています。不適切な取り出し方では有害物質が出るおそれもあり、土壌や地下水が汚染され、人々の健康リスクも高まります。

 このような問題に対処するため、EUでは、2024年2月に「修理する権利(Right to Repair)」に関する新たな法案が欧州議会とEU理事会で合意されました。これにより、消費者が購入した製品を自分自身で、簡単に修理したり再利用したりできるよう、企業に対して、製品の修理可能性やリサイクル性を高める持続可能な製品づくりを求めています。使い古したから終わりではなく、製品として何世代も使えるような設計や、修理マニュアルの公開、定められた期間、修理部品のストックなどが義務づけられているのです。

 フランスでは、すでにどの範囲まで修理できるのかを製品に表示することが義務化されており、アメリカでも一部の州で「修理する権利」に関する法律が成立しており、今後さらに広がる可能性があります。日本はそもそも「家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)」により、家電製品を回収しリサイクルすることが義務化されており、製品の修理しやすい設計を推進する議論は進んでおり、今後の動向が期待されます。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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