どのような枠組みや手順で設計すれば、環境に配慮したものづくりが実現できるか-そのプロセスとは
製品のライフサイクル全体における環境負荷の70~80%は、設計段階で決まるとされています。そもそも修理をするには、開発初期段階で、修理が可能な設計にする必要があり、素材の選定、製造プロセスの工夫、リサイクルやアップグレードを前提としていることも考慮する必要があります。効率性だけではなく、ライフサイクル全体を考慮した設計の重要性がいっそう求められています。
使用されなくなった段階で廃棄となってしまわないように、まず開発初期段階で、各部品をリサイクル可能な素材でつくっておく必要があります。そのうえで、部品をあらかじめ分解・交換・修理しやすいようにつくっておくことも重要です。つまりは設計の段階で、どの部品をひとまとめの単位=モジュールにするのかを検討しなければなりません。
たとえばスマートフォンであれば、バッテリーの消耗が激しいので、ほかの部品とひとまとめにせず、取り出しやすいようなモジュール設計にしておくなどの工夫が必要です。その切り分け方は、同じ製品でも違ってきます。
モジュールが違えばサプライチェーンも異なり、それに伴いCO2排出量も変わってきます。輸送距離が近いほうがCO2排出量は軽減でき、飛行機か船か鉄道かトラックかなど、輸送方法によってもCO2排出量は異なります。部品をどの国のどの場所のどのメーカーから調達するかによっても、環境負荷は変わってくるため、適切なサプライチェーンを選択することも大切です。
距離だけでなく、製品の軽量化も、輸送エネルギーを軽減することに大きく関わってきます。軽量化は使用時にも大きく関係することになり、たとえば自動車などは車体を軽量化すれば燃費も良くなります。そのため昔は鉄でつくっていたフレームにアルミや炭素繊維を混ぜるなど、メーカー各社は軽量化も常に意識して設計を進めています。
我々の研究室では、製品設計の観点から環境負荷を低減するために何ができるかを検討しています。どのようなモジュール設計を行い、どのサプライチェーンを選べばCO2排出量を減らせるのか、製品構造とサプライチェーンの関係を見える化し、製品事例に合わせた試算をして、効果があるかを検証しています。また、NGP(日本自動車リサイクル事業協同組合)との共同研究では、各社の車を全て分解し、例えば、エンジンの補修にリサイクル部品を使うと、どのタイプの車ならどのくらいCO2排出量を削減できるのかといった情報も公開しています。

共同研究を実施して推進するエコプロジェクト(https://www.nepp.jp)
設計の際には、コストや性能など、CO2排出量とは矛盾する関係のものも含めて考慮する必要があります。あくまで、意志決定者はメーカーなので、意思決定を支援するアプローチが我々の研究です。できるだけ汎用性のある手順を提示し、具体的な製品に適用できるか、できないのであればどのような方法で実現できるか、適用事例を増やしながら検証を繰り返しています。
今後さらに取り組んでいきたいことに、製品のアップグレードがあります。市場価値が低下する要因となった機能や部品を、新しい技術でソフトウエアのようにアップグレードできれば、長期間使用した製品であっても、寿命も伸び、その結果、新しい価値を生み出すことにつながります。何世代も使えるアップグレード設計という概念自体は既にあるのですが、どのような枠組みやプロセスで実施すれば、実現できるのかという実証が追いついていないのが現状です。不確実性が多いなか将来の動向を予測しながら設計するのは困難ではあるものの、ぜひ進めていきたいアプローチです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。