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2025.02.20

ジェンダー、アイデンティティ、SDGs…ファッションを通して考える現代社会

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ファッションのサステナブル化が、多様な“自分らしさ”の表現につながる

 地球環境の変化とともに世界中がSDGsを推進するなか、移り変わりが激しく、すぐに終わりを迎えるファッションは、サステナブルに最も反しているものの一つです。

 今年の流行はこれだと提示し、早く大量につくった新しいものを買わせようと画策して、流行が終われば大量に廃棄する。製造時には大量の水を使い、焼却時には大量のCO2を排出する。安価なファストファッションをつくる一部の海外メーカーでは、低賃金下での長時間労働なども問題になっています。

 一方、これらファストファッションのメーカーのなかには、回収した古着の素材で商品をつくったり、難民認定になった方を積極的に雇用したりと、率先してSDGsに取り組む企業も増えてきています。

 また、消費者がどこまでサステナブルな要素を取り入れたファッションを身につけるのか、という問題もあります。

 そもそもファッションとは非言語記号であり、それ自体で語るものです。たとえばブランドのバッグを持つことで、“わたし”は誰なのかを暗に伝えようとする、顕示的消費の対象とも言えます。たとえば植物由来の革風味の素材やリユース素材でできたカバンをサステナブルファッションとして持ち歩いたとしても、説明なくそれに気づいてくれる人はなかなかいないのではないでしょうか。つまりは顕示的消費になり得ないというわけです。

 サステナブルファッションは、なりたい“わたし”の要素になり得るのか。自分を変えていくというファッションの醍醐味とサステナブルは、もしかしたら相性が悪いと言わざるを得ません。では、できるだけ持続可能な形でファッションを展開していくには、どうすればいいのでしょうか。

 これまでの“わたし”は、若さやジェンダー、国籍などを明示する表面的な部分を指していました。そこから進化し、内面的な“わたし”、すなわちその人の生き方を支えるものにファッションはなり得るかどうかが、カギを握ると考えます。表面的な意味で“わたし”が誰かになろうとする試みの連鎖を断ち切ることができた先に、サステナブルファッションは成立するのかもしれません。

 ファッションはメディア、メーカー、着用者など、複数の行為者によってつくられるものです。そこにある潜在的な価値が、自身のアイデンティティを打ち出すための何かに紐付けられれば、自分が誰であるかを見せるための装置であったファッションそのものの意味も変わっていくでしょう。

 真に“自分らしさ”という多様性を表現できるようになるためには、表面的な記号の枠を超えたファッションが必要なのかもしれません。それが実現したときに、自身の属性における理想像に到達できないことで生まれる、規範的不安から解放されるという見方もできます。ファッションの位置づけが今後どうなっていくのか、注目を続けたいです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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