Meiji.net

2025.01.16

都市と田舎の新しい可能性——「地方創生」からの10年を考える——

  • Share

「都市化」から「農村の時代」へ移行する可能性

 地域の特産品や伝統工芸が都市生活者にとっても大きな魅力を持つ地域資源となり得ることはもちろんですが、それが地域の他の要素にもつながっていることを理解すれば、魅力はさらに深まるのではないかと個人的には考えています。

 一例として、大分県の日田市のケースを紹介したいと思います。日田市は日田杉と呼ばれる木材の産地ですが、丸太から製材するにあたって出る端材を利用して下駄などのものづくりが行われていることはよく知られています。

 日田市の山間部には小鹿田皿山地区があり、小鹿田焼という伝統的な陶芸の産地となっています。その燃料も、やはり日田の林業産地から持ってきた端材や木の皮等です。里では、「唐臼(からうす)」という水流を利用したししおどしのような仕掛けで焼き物の原料となる土を砕いています。一日中、コトンコトンという音が響く風景は「残したい日本の音風景100選」に選ばれるなど、文化的な地域資源となっています。

opinion521_image1
(大分県日田市小鹿田皿山地区の唐臼。2022年3月22日に筆者が撮影)

 さらに調べてみますと、唐臼の動力となる水の流れは、小鹿田の上流に広がる棚田の村から来ていることがわかりました。つまり、小鹿田焼という伝統工芸は、職人さんの技術だけではなく、林業産地や上流の水の安定管理など、地域と結びついた「環」となってはじめて成立しているのです。

 日本各地に存在する伝統工芸は、しばしばそれ単体が地域資源として見られていますが、より広い射程でとらえると、持続可能性や地方の新しい循環の文脈のなかで、その価値が深く理解されるのではないでしょうか。

「地方消滅論」と「田園回帰論」からの10年で、地方が抱える問題はある意味ではクリアになってきています。私が強調したいのは、「都市化の時代から農村の時代へ」という可能性を、もっと積極的に追及するべきではないかということです。

 それは、数十年前の田舎の暮らし方に戻りましょうということではなく、現代の農村で働いて暮らす生き方を考えるということです。都市のことは都市、農村のことは農村ではなく、その両方に活力がある社会への移行を考えていかねばらないでしょう。

 企業もまた、多様な主体が参画し重層する「環」を創造する社会の方向性のなかで、主要なアクターとしての役割を果たすことが期待されています。大切なのは、企業も地域のコモン(社会的共通資源)の創造に参加して共生することに他なりません。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい