冤罪事件を減らすためには?
冤罪が著しい不正義であることに、おそらく誰も異論はないと思います。ではどうすれば、少しでも冤罪を減らすことができるでしょうか。
冤罪を防ぐためには、まず冤罪の原因を特定する必要があります。冤罪の原因としては、目撃証言の誤りや、科学的証拠に対する過信、共犯者による巻き込み供述など、さまざまなことが考えられます。しかし、日本の場合、「虚偽自白の存在」と「証拠の不開示」が最大の原因といえるでしょう。
まさに袴田事件がそうであったように、冤罪事件には、虚偽自白と隠された証拠が存在していることがほとんどだからです。
虚偽自白を防ぐために最も効果的な方法は、被疑者の取調べを可視化することです。広く諸外国においても行われているように、取調べを録音・録画することや、取調べに弁護人を立ち会わせることで、捜査機関による違法・不当な取調べを抑制することが可能です。
日本でも、2016年の刑訴法改正によって、ようやく取調べの録音・録画が制度化されました(2019年から施行されています)。しかし、録音・録画の対象は、裁判員裁判対象事件など、ごく一部の事件に限られています。
また日本には、いまだに弁護人立会制度が存在しません。弁護人の立会いを認めると、被疑者が供述(自白)しなくなり、真相解明に支障を来す、というのが、警察や検察の言い分です。
しかし、被疑者には黙秘権が認められています(憲法38条1項、刑訴法198条2項)。たとえ弁護人の立会いを認めることで、被疑者が供述しなくなったとしても、それは正当な権利の行使であって、何ら批判されるべきものではありません。
弁護人立会制度は広く欧米諸国に存在していますし、東アジアでも韓国や台湾には存在しています。もちろん、諸外国にあるからといって、日本でも同じようにしなければならないというわけではありません。しかし、日本の刑事司法制度が、グローバル・スタンダードから外れている、ということは自覚しておく必要があります。
冤罪を防ぐためには、再審段階における証拠開示制度も必要です。袴田事件では、当初、弁護側に有利な証拠が開示されていませんでした。再審開始決定が確定した現時点においても、全ての関連証拠が開示されている、という保証はどこにもありません。
袴田事件で弁護側は、検察が持っている全証拠のリストを開示するよう要求しました。しかし、検察は最後まで証拠のリスト開示には応じませんでした。これでは、本当に必要な証拠が全て適切に開示されているのかどうか、チェックのしようがありません。
弁護側に有利な証拠が埋もれたままになるようなことがないよう、少なくとも検察が保有する全証拠の一覧表を作成し、これを弁護側に開示する仕組みを設けるべきでしょう。
人間のする裁判ですから、それでも冤罪をゼロにすることはできないかもしれません。それでも、新たな立法によって、取調べに弁護人の立会いを認めるとともに、再審段階における証拠開示制度を創設することで、より多くの冤罪被害者を救済することはできるはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。