証拠隠しやねつ造が行われている?
袴田事件には有力な物的証拠がありませんでした。ところが、事件から1年2か月後、味噌製造工場の味噌タンク内から、血染めの「5点の衣類」(ズボンやパンツなど)が発見されます。
袴田さんは自分の衣類ではないと主張します。しかし、裁判所は「5点の着衣」が袴田さんのものであると認定し、これが有罪の決め手となって死刑判決が確定するのです。
しかし、弁護側が血の付いた衣類を1年2か月味噌漬けにする実験を行ったところ、もはや血の「赤み」は残らないことがわかりました。味噌漬けにすれば、1か月も経たないうちに、血の色はどす黒く変色するのです。検察側の実験でも、やはり血の「赤み」は残りませんでした。
長期間、味噌に漬けられると、血の「赤み」は残らないことがはっきりしました。しかし、1年2か月間、味噌に漬かっていたはずの「5点の着衣」には、鮮明な「赤み」を帯びた血液が付着しています。なぜでしょうか?
再審開始を認めた東京高裁は、「5点の着衣」は発見される直前に何者かが味噌タンクの中に入れたとしか考えられない、そしてそれは捜査機関である可能性が極めて高い、としています。
ところで、「長期間、味噌漬けにされると、血の赤みは残らない」ということに、なぜもっと早く気付けなかったのでしょうか。
それは「5点の着衣」のカラー写真の存在を知らされていなかったからです。検察は第二次再審請求に至るまで、このカラー写真を弁護側に開示していなかったのです。
弁護側に開示されていなかった証拠はそれだけではありません。実は、犯行着衣とされた「5点の着衣」のうち、ズボンはサイズが小さすぎて、袴田さんには穿くことができませんでした。
しかし、検察は「長期間味噌漬けにされていたため、ズボンが縮んだ可能性がある」とか、「ズボンを乾燥させたときに縮んだ可能性がある」などと主張していました。その根拠として、ズボンのタグに「B」という記号があること、そしてそれが大きめのサイズを意味する記号であることを主張していたのです。
ところが、この「B」は、ズボンのサイズではなく、色を表すものでした。警察はズボンの発見後、製造元に問い合わせ、「B」が色を表す記号であることを確認していたのです。この事実は警察自身が作成した調書にも残されています。しかし、この調書も第二次再審請求に至るまで開示されていませんでした。
実は日本の法律上、検察には再審段階で証拠を開示する義務はありません。そのため、弁護側が証拠開示を請求しても、応じてもらえないのがふつうです。袴田事件では、たまたま裁判官の勧告もあって、再審段階で600点もの証拠が開示されたのです。
もしこれらの証拠が開示されていなかったら、果たして再審開始に至ったでしょうか?「5点の着衣」が捏造であるということに気付けたでしょうか?
他方で、これらの証拠が初めから開示され、裁判官の目に触れていたら、そもそも袴田さんが有罪とされることはなかったのではないでしょうか。少なくとも、裁判にこれほどまでの長い年月を要することはなかったはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。