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2022.09.07

単純にイエス、ノーと言えない産業動物のアニマルウェルフェア

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それぞれの立場から考えるアニマルウェルフェアの違い

 アニマルウェルフェアというと、私たちは、動物をかわいいとか、かわいそう、という視点で考えがちです。しかし、そうした情緒的な感覚で判断すると、ことの本質を見失う恐れがあります。特に産業動物に関するアニマルウェルフェアは、そこに関わる人たち、それぞれの視点から考えると、単純なイエス、ノーに2分できる問題ではないことがわかります。例えば、産業動物の生産者、販売業者、消費者、行政がすべて、同じような考えを持つことはなかなか容易ではありません。

 例えば、消費者にとっては毎日の食材である畜産物は価格が安い方がうれしいでしょう。特に昨今はウクライナ情勢や為替レート変動の影響もあり、畜産物の価格高騰も社会問題となっています。消費者が安価な畜産物を求めると、生産者はそれに応えるために、コストを可能な限り削減するために、効率性や生産性を重視した飼養管理を実施することになり、既存の飼育システムを大幅に変更するという判断が難しくなります。もし日本において、既存の飼育システムの大幅な変更に伴って畜産物の価格が上昇した際に、消費者はそれを受け入れることができるでしょうか。

 また、日本とヨーロッパなど海外諸国とは、食文化や食に対する安全意識の違いによって、同じやり方がそのまま行えるわけではありません。例えば、日本では卵の生食文化がありますが、欧米では卵の生食はまず考えられません。これは、日本では卵を生で食べられるほど、卵の洗浄殺菌やパック詰めなどを含む衛生管理が海外よりも徹底していることが要因です。

 さらに、アニマルウェルフェアをどのように評価するかもとても重要なポイントとなります。例えば、放牧養豚の場合、ブタを放し飼いにしているため、アニマルウェルフェアを考える上で望ましい飼育形態のように思われます。しかし、このような環境で飼育されているブタは、一般的な養豚生産農場で飼育されているブタよりも疾病に罹患しやすく、子豚の死亡率も大幅に高くなります。アニマルウェルフェアを考える上では、一つの側面だけから評価するのではなく、複合的な指標をもとに客観的、科学的に評価する必要があります。

 これらのように、ひとつひとつの要因を多角的に見ていかないと、本質的な議論を行うことは難しくなります。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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