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人口減少社会と移民政策 ―多文化共生社会の構築に向けて―

明治大学 国際日本学部 教授 山脇 啓造

「多文化共生社会基本法」の制定

 政府の委員会が一時期、年間20万人という具体的数値を挙げて検討したことから、移民の受け入れに関して、社会の関心が急速に高まっているが、これまで全面賛成と全面反対の意見が注目される一方で、両論が歩み寄り着地点を探るような議論はされてこなかった。だが今、持続可能な社会実現のためには、人口減少を前提としつつ、移民受け入れも選択肢の一つに加えた総合的な検討をしなければならない段階にきている。具体的には、多文化共生社会の形成を目指すことを明確に打ち出し、外国人政策を再構築する必要がある。
外国人政策は外国人の出入国に関わる出入国政策と、入国した外国人を社会の構成員として受け入れる社会統合政策(移民統合政策)からなる。後者は、これまでは外国人が多い自治体が担ってきた。1970年代以降、在日コリアンの多い自治体が人権施策として取り組み、1990年代以降は、日系ブラジル人が急増した自治体が国際化施策として力を入れるようになった。一方、国レベルの取り組みは自治体に比べると大きく遅れてきたと言わざるを得ない。そして、現在も政府は移民政策をとらないと強調することによって、建設的な社会統合政策の議論を封じているともいえる。しかし、出入国政策と社会統合政策はいわば外国人政策という車の両輪であり、今必要なのは、外国人の社会統合に関する総合的なビジョンである。残念ながら、現在の移民政策の議論はこうした観点が欠落している。
社会統合政策の構築のために、私が2002年以来提唱しているのが「多文化共生社会基本法」の制定である。その目的は、人権尊重、社会参画、国際協調を社会統合の基本理念として定め、国や都道府県に基本計画の策定を義務付け、施策の推進体制を整備することにある。そうして初めて国や都道府県と市町村の連携も進み、地域社会の取り組みが一層効果的になる。

多文化共生の地域づくり

 多文化共生社会に向けた地域社会の取り組みの一つに、神奈川県横浜市のいちょう小学校(現・飯田北いちょう小学校)といちょう団地の事例がある。県営いちょう団地の中に開校したいちょう小学校は1980年代後半から団地に暮らすインドシナ難民や中国帰国者が増加したため、次第に外国につながる児童が増えていった。そんな中、2000年頃から、多文化共生のビジョンを掲げる校長のもと、教職員と地域関係者は、様々な課題に一丸となって取り組んでいく。やがて、いちょう小学校は「多文化共生の学校づくり」のモデル校として全国にその名を知られるようになった。
多文化共生の地域づくりが進んだポイントは3つある。地域コミュニティの核である小学校が多文化共生を目指したこと、一方、自治会やボランティア団体も日本人と外国人の様々な交流を活発に進めたこと、さらにこの三者が連携して、多文化共生の地域づくりに取り組んだことの3点であり、私はこうした連携のあり方を「多文化共生のトライアングル」と呼んでいる。いちょう団地も、かつては住民間の様々な軋轢を抱える団地だった。それが現在では、外国人(移民)の第二世代が地域社会に貢献するようになり、多文化共生のシンボル的な存在と見られるようになった。
いちょう団地では、外国人が支援される対象ではなく、むしろ地域社会に貢献する存在になりつつあるが、外国人の力を活用し、多様性を地域づくりに生かす政策を明確に打ち出しているのが浜松市である。ブラジル人労働者が多いことで知られる浜松市は2013年3月に「多文化共生都市ビジョン」を策定し、「多様性を生かした文化の創造」や「多様性を生かした地域の活性化」を掲げている。2006年に総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定して以来、全国の自治体で外国人住民のための生活環境の整備が進んだが、そうした取り組みの多くは外国人支援にとどまっている。多様性を生かした都市づくりは、近年ヨーロッパでも盛んになりつつあるが、日本そしてアジアでこうした方向性を明確に打ち出したのは浜松市が初めてである。これまでの外国人支援を中心とした取り組みを超えて、多様性を生かす観点に立った取り組みを私は「多文化共生2.0」と呼んでいる。

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