明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

木賃アパートには、未来社会を構築するヒントがある

連 勇太朗 連 勇太朗 明治大学 理工学部 専任講師

見えないつながりをいかに扱うことができるか?

 実は、老朽化した木賃は、そのオーナーや、さらにはその地域にとって、数十年におよぶ記憶や関係性という無形の価値を含んでいます。

 戦後の住政策として推進されたスクラップ・アンド・ビルドは、容易に数十年そこにあった空間、建物、環境を含んだ様々な記憶や人間関係を一瞬にしてキャンセルしてしまいます。

 木賃アパートがたくさん建っている木密には、細長い路地がたくさんあったりしますね。延焼の問題や耐震性のことを考えたら、こういうアパートをどんどんスクラップ&ビルドして、路地を広げて道路をちゃんと通したほうがいいとなります。ただ、エンジニアリング、防災、経済性の視点だけで、本当に都市空間や地域社会を簡単にリセットしてしまっていいのか?それは我々の社会が常に問わなければいけないことで、地域によっても答えは違うでしょうし、時代によっても違うと思いますが、簡単に片付けてよい話ではないことだけは確かです。

 経済の活性化のために推進されたスクラップ・アンド・ビルドは、無形ではあっても、確かにそこにあったコミュニティという地域のつながりを壊してしまいます。このことは、現代社会が抱える様々な問題にも繋がっていると考えています。

 例えば、私たちは、今後、住まいのセーフティーネットの構築に力を入れていく計画をたてています。

 従来の住まいのセーフティーネットとは、生活困窮の立場にいる人たちに対して、公共住宅など、安い住まいを提供するハード偏重型の政策でした。つまり、そこには、メンタルのケア、生活のサポート、地域とのつながりなどソフトの仕組みが連動していない、あるいは欠如していました。

 いまの様々な社会問題の背景には、地域との関係を切っていくような20世紀型の住まいのあり方が大きく関わっています。

 例えば、高齢者の介護を施設の中で完結させたり、子育てを自宅の中で完結させる形もそうです。そういう社会制度を前提に住まいがつくられ、まちがつくられてきたのです。

 そこには経済を効率的に回す発想があるばかりで、人や生活に対する配慮が希薄です。その結果、人々の孤立化と格差の拡大を生むことになっています。

 そういう意味でも、ハードのみに頼った解決策は限界があります。だから私の教えている建築学科における建築教育のあり方も大きく変わっています。必ずしも建物の設計だけが建築であると言えない時代になりました。建築教育も設計だけ教えていればよい時代ではなくなったのです。

社会・ライフの関連記事

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

2022.5.18

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

  • 明治大学 法学部 教授
  • 勝田 忠広
サステイナブルな社会になるために必要な「評価」とは?

2022.4.22

サステイナブルな社会になるために必要な「評価」とは?

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 源 由理子
熊本県産アサリ、産地偽装問題の一番の被害者は熊本県!?

2022.3.23

熊本県産アサリ、産地偽装問題の一番の被害者は熊本県!?

  • 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 法務研究科教授)
  • 高倉 成男
国が「してくれないこと」はあきらめるしかないのか?

2022.3.4

国が「してくれないこと」はあきらめるしかないのか?

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授
  • 清水 晶紀
「伝統知」には、サステイナブルな環境をつくる知恵がある

2022.2.18

「伝統知」には、サステイナブルな環境をつくる知恵がある

  • 明治大学 理工学部 専任講師
  • 川島 範久

新着記事

2022.05.19

どんな時も、自分の価値観を大切にしよう

2022.05.18

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

2022.05.17

心を開いて、積極的にコミュニケーションを図ろう

2022.05.13

理解度を高めるのは、説明を聞くよりも、説明をすること

2022.05.12

どんなプランも検証と修正を重ねて立てよう

人気記事ランキング

1

2022.05.18

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

2

2022.05.13

理解度を高めるのは、説明を聞くよりも、説明をすること

3

2021.12.15

使い捨て文化にはない豊かさがある、日本の漆器の文化

4

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

5

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

リレーコラム