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木賃アパートには、未来社会を構築するヒントがある

連 勇太朗 連 勇太朗 明治大学 理工学部 専任講師

複層化社会の構築

 「モクチンレシピ」のなかに、「くりぬき土間」というレシピがあります。これは、通常、アパートの外廊下に面している玄関をセットバックし土間のような空間を作り、玄関ドアをガラスにしてカーテンレールを付けるという改修アイディアです。

 すると、暗く閉ざされていた玄関から部屋の中に光が差し込んだり、自然の景色を部屋のなかから楽しめるようになります。入居者自身が必要に応じてカーテンをあけ閉めして、外と内の関係を調整できるようになっています。

 これは、昔の日本の住まいにあった土間や縁側に似た機能です。土間や縁側は住まいと外の世界の緩衝帯のようなもので、それがあることによって、境界を曖昧にし外とつながりやすくしていたのです。

 木賃にもそうした空間や場を取り入れると、採光や通風が良くなって快適性が増すだけでなく、例えば、一人暮らしの高齢者や一人親の子育てにも、地域住人の支援が入りやすくなります。

 日本は資本主義社会で、効率性や他人よりも勝ることが求められます。そのシステムの中で生じる孤立化や格差が生きにくさに繋がっているとしても、資本主義は大きなシステムで、それを簡単に否定したり、壊せるものではありません。

 私たちは資本主義を安易に否定することはせず、マーケットのメカニズムとは別に、ローカルな地域の関係性を複層化し、様々なつながりを個人が獲得できることが大事だと思っています。大きなシステムがクラッシュしても、小さなシステムやネットワークが個を支えるような、そうした社会をつくっていくことが大事だと思っています。

 複層化したレイヤーとのつながりや関係性があることによって、私たちは資本主義社会で生きることだけがすべてではない生き方が可能になるのです。そのときに建築や地域空間はとても大切な要素になります。コロナ禍を経て、そうした認識は少しは理解してもらいやすくなったのではないかと思います。

 いま、コロナ禍によってテレワークなどが浸透したことにより、自宅周辺や地域社会に目を向けるようになった人も多いと思います。それを良いきっかけとして、皆さんも様々な関係性をつくっていくことをやってみるといいのではないでしょうか。

 自分の世界に職場以外のレイヤーが加わることによって、生活が豊かになったり、生きやすくなることがあると思います。

 そうしたレイヤーは他者とのつながりの中で育まれます。私たちは、そうしたつながりが育まれやすいプラットフォームを、住まいづくりやまちづくりを通して、社会のなかに提供していきたいと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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