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国が「してくれないこと」はあきらめるしかないのか?

清水 晶紀 清水 晶紀 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

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2011年に起きた東日本大震災にともなう原発事故に対して、被害を受けた住民が、国に賠償を求める訴訟を起こしています。争点は、原発施設の津波対策が不十分なのに、国が事業者を規制しなかったということです。私たちは、行政の不作為の問題をどう捉えれば良いのでしょう。

福島原発事故で国家賠償は認められるか

清水 晶紀 行政の不作為とは、本来行政が行うべき活動を、積極的に行わないことです。それによって、市民が損害を被ることもあります。

 例えば、豪雨によって川が氾濫して地域住民に大きな被害が出たときには、行政側が土手の整備を怠っていたことが取り沙汰されたりします。

 では、行政の不作為について、その責任を問うことはできないのか。

 例えば、2011年の福島原発事故に対して、被害を受けた住民の方々が国家賠償訴訟を起こしています。訴えのポイントは、津波によって原発施設が損壊しないように整備する義務を怠っていた事業者を、国は規制しなければならないのにしなかったということです。

 裁判は異なる原告によって複数起こされていますが、国の規制権限不行使を違法とした判決が出る一方で、国の責任を認めない判決も出ています。

 つまり、福島原発事故をめぐる行政の不作為について、その責任を問う議論は分かれているのが実情なのです。

 この点、行政の責任を問わなくてもよいとした判決の多くは、津波リスクよりも地震リスクの方が高いと想定されていた当時の状況を踏まえ、地震対策に注力したために津波対策が遅れたのであれば、責任は問えないと指摘しています。

 そして、その際には、予算や人的資源などのリソースの有限性が、不作為を正当化する理由になると強調しています。要は、ない袖は振れず、不作為も仕方がない、ということです。

 そもそも、裁判所は争点を法律に照らし合わせて判断します。

 すると、法律の条文に、これをすべし、とはっきり書かれていれば、不作為の責任を問うことになりやすいのですが、絶対にこうしろと書かれていなかったり、国や自治体の裁量に任されているような書き方になったりしている場合には、リソース不足を理由として不作為が正当化される可能性もあるのです。

 私たち市民が、行政のこうした不作為に納得できない場合には、最終的には訴訟を起こすしかなく、判断を裁判所に預けることになります。ところが、先に述べたように、不作為の責任を問う議論は分かれており、できないことをやれとまでは法律も言っていないと判断される場面が、実際に出てきているのです。

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