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「伝統知」には、サステイナブルな環境をつくる知恵がある

川島 範久 川島 範久 明治大学 理工学部 専任講師

いまでも地方に残る「伝統知」

 例えば、現代の都市での住宅においては、驚くほど、太陽や風に対する意識がありません。それは、照明器具やエアコン設備、空調設備を使えば済むからです。

 すると、時間によって差し込み方が変化する太陽の光より、一日中一定の照明の方が使い勝手が良いと考える人も増えていきます。それは、自然と関わるより、人工的なコンパクトな空間で暮らす生き方になっていくことなのです。

 一方、伝統的な建築物が残る地域の集落では、陽当たりや風通しを考えて、家と農地の配置が決められ、家においては方角や、間取り、窓の位置が決められていることがわかります。

 また、家の中と外の境界が曖昧で、外の環境が家の中に繋がっているような構造もあります。

 もちろん、自然はやさしいばかりではありません。海風の強い漁村や、谷筋を通って突風が吹く中山間地域などでは、それを防ぐための工夫として、集落に樹が植えられていたり、各家に垣根があったりします。

 そこには、コンクリートの擁壁で風を完全に遮断するようなやり方ではなく、しなやかに風を防ぐ知恵があるのです。

 また、人が自然から恩恵を受けるだけでなく、人が自然に還す仕組みもありました。

 例えば、現代では、生ゴミなどは焼却されたり、排泄物は処理されて川や海に放流されています。しかし、それ以前は、生ゴミも人の排泄物も堆肥として大地に還していました。人は、堆肥という養分を与えた大地で農作物を育てて得る、という循環ができていたのです。

 また、コンクリートで覆われた現代の都市では、雨水は人工の管の中に通され、大地を潤すことなく流されてしまいますが、雨水が大地に還って土地を潤し、水脈をつくり、それを人は利用する、という伝統知もありました。

 つまり、かつては当たり前のように維持されてきた、太陽や風、栄養分、水などの循環が、現代では失われてしまっているのです。

 確かに、現代社会の仕組みは、人に、ある種の効率性や利便性をもたらしてくれますが、循環がない環境にサステイナビリティはあると言えるでしょうか。その環境を維持するために、人が電気や化学製品やコンクリートを使ってメンテナンスし続けることが、本当に効率的で利便的でしょうか。

 私たちは、伝統知に学ぶことがたくさんあると思います。

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