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農業は最後のフロンティア、拓くのは植物工場!?

池田 敬 池田 敬 明治大学 農学部 教授

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最近、植物工場が注目され始めています。植物工場自体は30年ほど前から研究されていましたが、実用化されるようになってきていると言うのです。それは、技術の進歩が大きいからですが、さらに、近年の気候変動などの問題が植物工場の必要性を高めていると言います。

植物工場は第三の農業

池田 敬 植物工場とは、ひと言で言うと、屋内で野菜などの農作物を作ることであり、また、その技術のことを指します。屋内なので光も水も土もないので、それらを人工的に与えて農業を行うわけです。

 農業は、自然の中に畑を作ることから始まりました。これは、エジプト文明の時代から今日まで続いている、第一の農業と言えるものです。

 第二の農業として、太陽光や熱を効果的に利用する温室栽培があります。日本では戦後くらいから急速に普及しました。これにより、例えば、トマトなどが季節にかかわらず、年中食べられるようになったわけです。

 そして、第三の農業として考えられてきたのが屋内で農作物を育てる方法です。ここには、温室栽培で培われた技術や、土を使わずに養分の入った水で植物を育てる養液栽培などの技術が活かされています。

 つまり、自然に依存した農業から人が学んだ知識や技術を活かし、人工的な環境下で作物の栽培を行う新たな農業の形が植物工場というわけです。

 では、なぜ、植物工場をつくる必要があるのか。それは、第一の農業が自然に依存した農法であるために、日照や雨などの自然の条件に作物が影響を受けやすいことがあります。このことは、特に、近年の異常気象や気候変動によってかなり顕著になってきました。

 例えば、2021年の夏は天候不順によりレタスの生育が悪く、市場の価格が高騰したのです。しかし、秋口に天候が安定し、生育が良くなって出荷量が増えると、今度は価格が一気に下がりました。

 要は、気候条件などによって安定生産、安定供給が難しく、それは、価格に影響するわけです。

 人工的な環境で栽培する植物工場であればそうした不安がなく、常に一定の価格で供給することが可能になります。これは、消費者はもちろん、農作物の加工業者や外食産業にとっては、非常に大きなメリットになります。

 また、土を使わず養液を使い、空気も人工的に管理するので、病気や虫が発生することがほとんどありません。そのため、完全無農薬が可能になります。

 もちろん、畑の農作物も安全基準によって管理されているので安全です。しかし、洗浄する手間やコストがかからない植物工場の農作物は、加工業者などにとっては、これも大きなメリットになります。

 また、近年では、海外でも植物工場が注目されるようになってきています。

 例えば、砂漠のような農耕に適さない環境でも、植物工場があれば新鮮な野菜を供給することができるようになるメリットがあるからです。

 実際、南極の昭和基地には植物工場が建てられていますし、航海の長い大型船などにも導入されるようになっています。

 植物工場のこうしたメリットは、広く認められるようになってきています。その結果、日本の植物工場も年々生産量を増やしているのです。

 もちろん、畑で生産する農作物に比べれば、その量は微々たるもので、今後も、畑の農業に取って代わることは考えられません。

 しかし、様々な環境下でも安定生産ができ、フレキシビリティの高い植物工場は、農作物の安定供給を支える、いわばセーフティネットとして、その役割の重要性は増してくると考えています。

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