学際的な活動や産学協働で進める研究開発
一方、植物工場がさらに発展するためには、克服すべき課題もあります。それは、コストの問題です。
屋外の畑であれば無料で得られる光ですが、屋内では人工的に光を作ったり、空調を行わなければなりません。そのためのエネルギーコスト、つまり電気代が大きな生産コストになるのです。
そのことが、現在、植物工場で実用的に生産できるのが主にレタスなど、葉菜類になっていることにも関係しています。
例えば、植物工場でトマトを栽培することも可能です。しかし、そのためには大量の光が必要になります。そのコストを考えると、一個1000円するようなトマトになってしまうのです。その点で、光のコストがトマトほどかからないのが葉菜類のレタスなのです。
それでも、畑のレタスに比べれば通常はまだ割高ですが、先に述べたように、天候不順でレタスの価格が上がったときには、むしろ、植物工場のレタスの方が安く供給できるようになってきています。
レタスの栽培コストを実用レベルまで下げられるようになったのは、LEDライトが導入されたからと思われがちですが、それだけでなく、実は、365日24時間稼働させなければならない空調機器の性能が上がったことが大きいのです。それにより、空調のランニングコストを大幅に下げることができたのです。
その意味では、実は、植物工場の実用化のためには農学部だけの研究ではなく、ライトや空調機器を研究する理工学部との協働が必要不可欠です。
さらに、作物をただ作るだけではなく、それを販売に繋げたり、損益分岐点を割り出し、利益に繋げていくマーケティングやマネジメントのノウハウも必要で、そのためには商学部や経営学部との協働も必要です。
本学は、そうした学際的な研究、開発ができる総合大学であり、実際に、4学部による協働プロジェクトを進めてきました。現在は、企業と農学部との産学協働プロジェクトに発展しています。
農学部の私たちは、植物工場に適した作物を研究するとともに、その作物をより大きく、より早く、より美味しくすることを考えています。
もちろん、一般に機能性野菜と呼ばれる従来の品種を越える作物も、生物なので、機能性成分の増大には限度があります。甘さを倍にしたとか、ビタミンCを1.5倍にすることができれば、実は、それは大変な変化なのですが、それが消費者にどう受け取られるのかが重要です。
消費者がそこに価値を感じないのであれば、費用対効果の悪い品種ということになってしまうわけです。
その意味では、作物の基本的な性質や栽培ノウハウを私たちはもっていますが、企業などからアドバイスをいただき、実用化できる新たな品種を生み、新たな技術を開発していくことが私たちの役割だと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。