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コロナ禍をきっかけに見えてきた「ひとり空間」の新たなかたち

南後 由和 南後 由和 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

コロナ禍を機に生まれる新たな「ひとり空間」

 一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、「ひとり空間」のあり方に新たな変化が起きるようになりました。

 従来の「ひとり空間」は、大きく三つの型に分類できます。一つ目は、ワンルームマンションのような、完全に仕切られてプライバシーが確保された個室である「専有型」です。

 二つ目は、カプセルホテルのような、視線などを遮断する装置はあるけれども、完全には仕切られていない「半専有型」です。

 三つ目は、同じ趣味・嗜好を持つ「みんな」が集まり、時間と空間を共有しながらも、個別に過ごす「共有型」です。言い換えるなら、「みんなでひとりでいる空間」です。

 例えば、コンセプト型ホステルなどが当てはまります。ただし、ここでいう「みんな」とは、誰でもいいわけではなく、ソーシャルメディアによってフィルタリングされた同質性の高い「みんな」です。

 これら三つの型に加えて、コロナ禍では、例えば、自宅のリビングで、親はリモートワークを行い、子どもはオンライン授業を受けるなどの状況が生まれました。そこで音を遮断するため、リビング内に、テントやボックスの簡易的な「ひとり空間」を導入する事例が見られようになりました。このような室内にさらに個室を作るタイプは、近くにいる人と隔たるという意味で、「近隔型」と言えます。

 もうひとつの型として、コロナ禍では、一人ひとりは別々の場所にいるものの、オンライン飲み会やオンラインライブで集まるという状況も生まれました。これは離れた人と接続するという意味で、「離接型」と言えます。

 最近では、オンライン飲み会用に、ひとり向けの居酒屋セットなども商品として販売されています。「離接型」は、従来は互いに切り離されていた「ひとり空間」同士が、オンラインで接続されるあり方であり、厳密には「ひとり空間」とは言えないかもしれませんが。

 コロナ禍は、「ひとり空間」に限らず、既存の空間のあり方に様々な変化をもたらしつつあります。例えば、大学では、大教室をはじめとする座学形式の授業はオンライン化が進み、その結果、大学の教室の大半を占める、固定された机と椅子が並ぶ教室のニーズは減っています。

 対面授業では、教員と学生、あるいは学生同士のあいだで創発的なコミュニケーションが生まれやすいのは確かです。しかし、固定された机と椅子が並び、学生に緊張を強いるような従来の教室は、創発的なコミュニケーションを生むための授業との相性がよくありません。

 実は、対面授業と言いながら、授業中に対面しているのは教員と学生だけであり、学生は全員前を向いていて、互いに対面していないという授業が多いのです。むしろ、顔出ししているオンライン授業の方が学生同士が対面していると言えるかもしれません。

 今後はもっと机や椅子の配置にフレキシビリティがあり、学生がリラックスして発話できるような教室を増やすことが求められるでしょう。あるいは、キャンパス内に学生が「ひとり」でいられる場所と、「みんな」で何かをする場所がきちんと確保されていることも重要でしょう。

 同じことは、学校だけではなく職場の空間にも当てはまります。リモートワークに代表されるように、住宅(第一空間)、職場(第二空間)、飲食店など(第三空間)の境界は互いに越境するようになっています。

 そのほか、コワーキングやワーケーションなどの働き方も見られるようになっていますが、同僚などの帰属集団との「接続」と「切断」のスイッチングが容易であるかが重要です。要するに、学校であれ職場であれ、「ひとり」でいる空間と「みんな」でいる空間を自在に行き来できる環境が大切ではないかということです。

 ただし、日本の都市の「ひとり空間」は、飲食店や娯楽施設などの商業空間、すなわち◯分◯円など、お金を払ってそこにいる権利を買うような「課金空間」が大半を占めます。

 今後は、学校や職場のほか、公園や広場などの公共空間においても、「ひとり」と「みんな」が、それぞれに居場所を見出すことのできる条件が整っているかがますます問われるようになるはずです。すでに用意された「ひとり空間」の選択肢の中から選ぶだけでなく、選択肢自体を自らつくっていくことを考えていく必要もあるでしょう。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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