2024.03.21
再生可能エネルギーを当たり前にするために必要なこと
浦野 昌一 明治大学 総合数理学部 准教授電力は需要と供給を常に一致させることが必要
電気が一般の商品と大きく異なるのは、作り置きができないことです。すなわち、いま、私たちが使っている電気は、いま、どこかの発電所でつくられている電気なのです。
それは、電気は大量に溜めておくことが難しいことと、もうひとつは、電気をつくる量と使う量を常に一致させていないと、電力系統が不安定になってしまうからです。
需要量に対して供給量が不足すると、一部に使えない人が出てくる、というのが需要と供給のイメージですが、電気の場合はもう少し複雑です。
簡単に説明すると、電気の需要と供給のバランスが崩れると、電気の周波数が乱れてしまうのです。周波数とは、よく、東日本は50Hzで、西日本は60Hzといいますが、これは交流の電流のプラスとマイナスが入れ替わるサイクルのことです。
日本の電力系統では、変圧が容易な交流送電が主に使われていて、各家庭に届けられる電気も交流の電流です。この周波数が乱れると、正常な電気の供給ができなくなってしまうわけです。
そこで、安全装置が作動し、発電所が停止する仕組みになっています。すると、需要量と供給量のバランスが崩れることによって停電が起きることにもなります。
実際、2018年に起きた北海道胆振地方東部地震では、道内で最大の苫東厚真火力発電所を含む震源地に近い発電所が次々と停止したことで、電力の需要と供給のバランスが大きく崩れたのです。
その影響は道内の各発電所に及んでいき、次々と停止したため、ついに、広大な北海道全域の電力が失われるブラックアウトが起こったのです。
こうした事態が起こらないように、電力会社などは供給量の向上や、設備の安全性の強化に努めています。
しかし、ただ、たっぷり発電すれば良いということではありません。発電しすぎても、それは周波数の乱れとなり、発電所の停止に繋がってしまいます。要は、電力系統を安定に維持するためには、需要と供給を常に一致させる必要があるのです。
そこで、より正確な電力の需要予測が、欠かすことのできない非常に重要な作業になってくるのです。
実は、社会の電力需用は、気温や湿度などの気象条件や、曜日や祝日などと連動するトレンドがあることがわかっています。
例えば、夏の暑い日はクーラーなどの冷房設備の稼働が増えるために電力消費が増えます。冬の寒い日も暖房設備を稼働させるので、やはり電力消費は増えます。一方、穏やかな春や秋は電力消費が少なくなります。
また、オフィスや工場が稼働する平日と、稼働のない休日では電力消費量は違いますし、月曜などの休日明けの日は、平日の中でも異なるトレンドを示します。
電力会社などは、こうした過去のトレンドの実績データを基に、気象予報などをデータ化して取り込み、ニューラルネットワークによる学習を重ねたAIなどを活用し、長期をはじめ、翌日、1時間後などの電力需要予測を計算し、電力の出力計画を立てているのです。現在、予測の誤差は数%程度だといわれています。
この予測精度をさらに高める研究が電力会社をはじめ、様々な研究機関などで行われており、私たちの研究室でも取り組んでいます。
結局、気象などの物理現象を捉える人の意思や行動によって電力消費が変わるので、そうした人の動きを捉えて数値化することができれば、予測の精度をさらに高めることができるかもしれません。
例えば、SNS上の書き込みなどを人の意思や行動として捉え、リアルタイムに数値化するのです。難しいトライですが、研究の価値があると思っています。