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2021.02.03

なにを得るために個人の情報をやり取りするのか?

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個人情報の利活用を前提とした個人の意識と社会の仕組み

 個人に関する情報の利用が進んでいるアメリカでは、データブローカーと呼ばれる巨大企業が膨大な個人情報を収集・分析し、それをもとに個々人をプロファイリングしたり点数化したりしています。

 そして、企業や金融機関などは、こうした情報を購入し採用活動や信用評価の際に利用しています。

 最近ではGAFAなどのいわゆるプラットフォーマーも個人の情報を活用したビジネスに加わり、企業やビジネスが中心となった情報の利活用が進んでいます。

 その一方で、個人情報の所有権を情報主体である個々人に取り戻し、個人が能動的にそうした情報の取引や管理を行うことを促すような動きも見られます。

 個人の情報をその個人自らの手で管理することができるように数多くのパーソナルデータストア(PDS)サービスが提供されていますし、自分の情報を企業に売ったり個人情報で代金を支払ったりすることができるような仕組みすら整い始めています。

 では、日本は今後、どのような方向に進んでいくのでしょうか。これはまだわかりません。

 企業がコストをかけて収集・分析した情報を、法律の範囲内で個人が識別されないように配慮しながら戦略的資源として利用していくことは、もちろんれっきとしたビジネス活動ですし、今後もますます増えていくでしょう。

 しかし、先の例でみてきたように、個人に関する情報がその人の手を離れて様々なビジネスの場面で利活用されていくと、取り残された個人は不本意さを顕在化させ、強い反発が生じるかもしれません。

 そうした意味で、自分の情報を自分の所有物として自らが管理し活用するというスタイルも今後増えていくかもしれません。昨年の秋、自分の部屋での生活の様子をおさめたビデオを月額20万円で買い取るという社会実験が日本でなされたことが報道され、話題となったことをご記憶の方も多いと思います。

 とはいえ、自分の情報を自分で管理するという煩わしく知識も必要な作業を本当に一般の人々が進んで行うのかという疑問も残ります。

 そうした中、日本では、自分の情報の運用や管理を自分で行わずに信頼できる組織に委託し、その運用益を情報の持ち主である個人に還元しようとする仕組みである「情報銀行」構想に注目が集まっています。

 いずれにせよ、個人に関わる情報の利活用は今後ますます増大していくことでしょう。個人の実際に行ったことが情報として収集され利用されるという局面だけでなく、利用されている情報の内容がその人の実際の行動に影響を及ぼすような局面も出てくるかもしれません。

 実際に、アメリカでは、自分に関する情報の内容が、受けられるサービスの範囲を制限したり、労働市場における自分の価値を左右したりしています。

 ぼんやりと折り合いをつけておくことは、手間が少なく気楽な状態ではありますが、そろそろ我々も自分事としてより真剣に考える時期に来ているのかもしれません。

 まずはひとりひとりが自分の情報について気に掛けること。こうした意識の変化が、公平公正な社会の仕組みづくりにつながっていくでしょうし、我々が次の世代により良いものを残していくための第一歩になるのかもしれません。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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