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コロナ禍を都市政策の歴史的な転換点に

野澤 千絵 野澤 千絵 明治大学 政治経済学部 教授

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2020年、パンデミックとなった新型コロナウイルスは、それまでの社会のあり方を問い直すようなきっかけになりました。そのひとつが、まちづくりや都市政策の問題です。しかし、人口減少が急激に進んでいる日本では、実は、コロナ禍がなくても、それは喫緊の課題なのです。

コロナ禍によって見直されるまちづくり

野澤 千絵 2020年の日本のコロナ禍は、職・商・遊といった多くの機能が大都市に一極集中した過密都市の脆弱性を露呈させました。

 これは、ずっと前から問題視されていたにもかかわらず、解決しようと本腰を入れてこなかった高度経済成長期から続く都市問題の一つでもあります。

 これまで、日本の大都市は、都心に多くの機能を集中させることで利便性や効率性を高め、それによって人口を集め、さらに、郊外をベッドタウン化することで拡大してきました。

 人々にとって、郊外の一戸建てやニュータウンに住み、都心の先進のオフィスで働くことがひとつのライフスタイルになったわけです。

 しかし、それは一方で、無秩序、無計画な市街地の拡大、いわゆるスプロール現象を招きました。

 また仕事場の都心一極集中による職住分離のライフスタイルは、人々に、「痛勤」と言われるような過密すぎる移動空間と、長い移動時間を強いるようにもなりました。

 ところが、コロナ禍によって、ステイホームが推奨され、リモートワークが普及したことは、「痛勤」をともなうライフスタイルを見直すきっかけになったのではないでしょうか。

 そもそも、多くの施設が集中する余り、何をするにも人・人・人という過密すぎる都市が本当に便利なのか、快適なのか、という疑問は多くの人がもっていたと思います。すなわち、心のゆとりも、時間的余裕もないような、常にあくせくとした生活のままでは、国際的に見ても真に成熟した都市とは言えないのです。

 では、心豊かに暮らせる環境とは、どういうものなのでしょうか。このコロナ禍でわかったことのひとつは、リモートワークによって実現した「痛勤」のない職住近接という環境が、やはり解放的で快適であるということでしょう。

 例えば、都心のタワーマンションが人気なのも、眺望だとかステイタスが宣伝されますが、実は、職住近接や利便性が大きな要因です。

 既に住環境が整備されている郊外のベッドタウンが、さらに職と近接な環境になれば、都心よりも余裕をもって、心豊かに暮らせるという人も多くなるかもしれません。

 コロナ後もリモートワークが定着するのか、まだわかりませんが、「住機能」に特化した郊外のまちがベッドタウンから脱却することが、まちづくりのひとつの方向になります。

 そのために必要なのは、「まちの多機能化」です。長距離移動をしなくても、近隣でそれなりに生活が成り立つような、分散型都市づくりを加速することが必要不可欠です。

 リモートワークをするにしても、日中、自宅に小さな子どもがいたり、家族がいる環境では、仕事に集中しづらくなります。また、ビジネス側から見ると、インターネット環境のセキュリティが万全となっていることも必要となります。

 そこで、インターネットのセキュリティ環境が整ったサテライトオフィスやシェアオフィスといった職の機能が、せめて近隣の駅周辺にできれば、長期的にもリモートワークが可能となります。こうしたオフィスができていくと、その周辺には、オフィスを支える様々なサービス施設の立地を促すことができます。

 つまり、ベッドタウンが、いままで整えてきた住環境としての利便性に加え、職住近接のニーズに応える様々な施設が立地することで、まちの価値を高めていくことにつながります。

 ただし、地元のまちづくり組織や民間企業、自治体など、こうした取り組みを支える担い手が出てくること、きちんと民間のビジネスとして成り立つこと、リモートワークが社会の中で根付くことが必須となります。

 こうした取り組みは、コロナ禍だからといって何も新規的な側面はありません。いずれもこれまでにモデル事業的に取り組まれてきました。

 これからは、まちの将来を見据えて、官民あげて具体的にどのように取り組むのか、まさに、それぞれのまちの本気度が試されると言えるでしょう。

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