
2019.12.11
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
日本でミュージアムの文化が広がらないもうひとつの理由は、一般の市民の関心が低いことです。
先に述べたように、多くの人の関心を高めるにはミュージアム側の努力が必要ですが、その取り組み自体が伝わっていないのが現状です。
ミュージアム側は、実に様々な方法で情報発信していますが、それがなかなか受け取られないのです。
9月に京都で行われた国際博物館会議(ICOM)で、博物館の定義を見直す提案がありました。「もっと政治的な要素、国際的な課題にも取り組むべき」という内容です。
確かに、人類の歴史には戦争や人種差別など、様々な負の側面もあり、それが今日の国際政治に影響を及ぼしているのは事実です。
であれば、過去の負の出来事をただの記憶にしてしまうのではなく、それを決して繰り返さないために、様々な形で後世に語り伝えていくことも博物館の役割のひとつです。
しかし、それを博物館の定義としてしまうと、日本各地にある郷土博物館など小さな館の中には、博物館を名乗れなくなる館が出てくるということにもなりかねません。
また、日本のミュージアムは、第二次世界大戦の反省から、戦後、政治と距離を置く傾向にありました。それを問い直すとすれば、市民レベルの議論も必要になってくるのではないかと思います。
一方で、「国際的な課題」とは、地球規模の環境問題に対してSDGsをはじめとした国際的な取り組みの中で、大小に関わらずミュージアムはどのように関わっていくのかを考えることでもあります。
ミュージアムを取り巻く環境は、このように様々な動きがあります。
なのに、私たちの生活をより豊かにし、社会との接点のきっかけにもなるミュージアムに対して無関心でいるのは、とてももったいないことだと思います。
まずは、ミュージアムを純粋に楽しむことからはじめ、そこから見えてくる自分と社会との新たな関わり方があれば、それについて考えたり、取り組むことも、とても有意義なことになると思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。