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遺伝子組み換えが怖いのは、目先の利益で行っていること

島田 友裕 島田 友裕 明治大学 農学部 准教授

遺伝子組み換え技術やゲノム編集は、自然界に元々存在する仕組みを利用したもの

 人であれば、遺伝子の組み換えは、先に述べたように、精子と卵子が組み合わされることで起こり、次世代に新たな形質として現れます。

 ところが、微生物は、そこに存在するもの同士で遺伝子のやりとりを頻繁に行い、しかも、遺伝子の組み換えまで自ら行ってしまうものもいます。つまり、次世代を待つことなく、いま生きている個体自身が新しい形質を獲得してしまうのです。

 その仕組みは、彼らが様々な環境に適応して生存していくために多様性を獲得するための、いわば、彼らなりの生存戦略です。例えば、彼らにとって生きやすい環境にいるときは、遺伝子のやりとりは稀で、それは持っているだけで使われることは殆どありません。ところが、環境が生きにくい厳しいものに変わると、彼らは積極的に遺伝子を組み換えるようになったり、獲得した遺伝子を利用したり、自ら遺伝子組み換えを行い、遺伝的な多様性を獲得しようとするのです。

 例えば、新たなDNAの獲得によって、いまのストレス環境に適応するための機能を持った能力を獲得することができるようになるかもしれません。そうやって何億匹の中の一匹でも生き残れば、その形質が次の世代に伝わり、また、何億匹の群れになることもできるわけです。

 実は、こうした自然界に存在する遺伝子組み換えの仕組みが、農薬耐性をもつ雑草を生む原因になります。

 例えば、あるウイルスが人工的に作出された農薬耐性をもつトウモロコシの遺伝子を抜き取り、それはウイルス間でやりとりされ、雑草に感染するウイルスから雑草に受け渡されたかもしれないのです。もちろん、このウイルスはそれを意図的に行ったのではありません。それは、自然界で彼らが生き残る仕組みのひとつなのです。

 そもそも、農薬耐性のあるトウモロコシの遺伝子組み換えは、元々は自然界に存在していたある生物の遺伝子組み換え機構を応用して行われています。ですから、人工的に作り出した形質が自然界で利用されれば、自然界に存在する生物の遺伝子組み換えの仕組みを通じて、その形質が自然界にある様々な作物に伝わる可能性があります。

 このように、遺伝子やゲノムに人工的に操作を行ったことが自然界に放たれることによって、新たな問題が発生することが危惧されます。こうした問題が見過ごされ、望む形質の生物を作り出すという実現だけに向かって技術が利用されることが、実は、大きな問題なのです。

 つまり、現状では、作物だけでなくウイルスなどを含めた、環境全体の因果関係の理解が欠落していたと言わざるを得ないのです。このような問題点に目を向ければ、遺伝子組み換えをした作物を自然の畑で育てるような短絡的な方法は行わなかったかもしれません。

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