明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

「縁」から見える日本の農村の多様性と持続性

服部 俊宏 服部 俊宏 明治大学 農学部 准教授

2015年に「都市農業振興基本法」が成立しました。都市農業が見直されたことはもちろん、農村の土地利用や地域資源の管理など、農業に対する取り組みが変わってきています。その背景には、農業に関わってこなかった都市生活者の意識の変化があります。

都市と農村の「縁」

服部 俊宏 私の関心のある領域を漢字一文字で表すと、「縁(へり)」になります。何事も中心は安定していますが、周辺に向かうほど不安定化します。縁では別のなにかとの衝突が発生し、境となり、解決すべき問題が顕著になるからです。

 農村にも多くの縁が存在します。空間的には、農業と都市のせめぎ合いがある都市近郊の農業。また、農村には農村で、自然との境で鳥獣害が問題となります。海との境である沿岸地域では自然災害が問題となったり、海上では、日本の漁師の利害が他国のそれと衝突することもあります。

 また、時間の軸で考えると、高齢の人が多い農家の現役世代と、継承に迷う世代との関係にも境があります。農業に対する取り組みの意識の高さの違いは、同じ農村、同じ世代にもあり、地域内に境を生むこともあります。さらに、成長の時代と現在では、問題の捉え方や、問題そのものが変わっていることもあります。

 このように、両側からそれぞれの利害のために押し合いや、せめぎ合いが生じる境が縁なのです。農業や農村における縁に注目することは、日本の農業や農村が抱える問題を考えることであり、日本の農業の持続性を考えることに繋がります。

 その意味で、注目したい典型的な縁のひとつが、都市近郊の農業です。1990年代にバブルが弾けるまでの時代は、都市と農村のせめぎ合いは非常に鮮明で、いまよりもリアルでした。

 例えば、都市が拡大していく中で、都市近郊の農地は一時利用地のように見なされていました。最終的には、拡大する都市の用地となることがゴールのように思われていたわけです。

 また、社会が高度経済成長する中で、農家に生まれた人たちも都市の企業などに就職するようになり、農家は後継者問題を抱えます。また、地価の高騰による相続税の負担など、それでも農業を続けたいという人には厳しい環境になりました。

 この状況が変化するのは、バブルが弾けたことにより都市の拡大が止まり、都市農地の変化のゴールがなくなったことです。つまり、都市に飲み込まれることなく、農業を続けていくことができるようになったわけです。だからといって、それで様々な問題が解決したわけではありませんでした。

 しかし、都市生活者の農業に対する目線が変わっていったこともあり、農地を取り巻く政策に変化が現れたのです。

社会・ライフの関連記事

食べることで太らないようにする方法が見つかりそう

2022.11.9

食べることで太らないようにする方法が見つかりそう

  • 明治大学 農学部 専任講師
  • 金子 賢太朗
コロナ・パンデミックの知見は社会にとって貴重な財産になる

2022.11.2

コロナ・パンデミックの知見は社会にとって貴重な財産になる

  • 明治大学 政治経済学部 准教授
  • 盛本 圭一
ポストフェミニズムと言い切って良いの?

2022.10.19

ポストフェミニズムと言い切って良いの?

  • 明治大学 理工学部 専任講師
  • 大澤 舞
ことばによるバイアスに気がつく方法とは

2022.9.28

ことばによるバイアスに気がつく方法とは

  • 明治大学 法学部 教授
  • 堀田 秀吾
現代の社会的課題を解決する糸口は、中庸の欲張り!?

2022.9.14

現代の社会的課題を解決する糸口は、中庸の欲張り!?

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 本所 靖博

新着記事

2022.11.29

行き詰ったら、「知の総合化」で解決しよう

2022.11.25

中華世界の拡大は、実は、理に適っていた!?

2022.11.22

好奇心を尊重し、長い目で見て、人を育てよう

2022.11.18

「タンパク質は面白い」という好奇心が、がん退治にも繋がる!?

2022.11.17

環境共生などの社会的責任を自覚して働こう

人気記事ランキング

1

2022.11.18

「タンパク質は面白い」という好奇心が、がん退治にも繋がる!?

2

2022.11.25

中華世界の拡大は、実は、理に適っていた!?

3

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

4

2020.11.04

私たちの身近にある熱エネルギーには多様な可能性がある

5

2019.11.08

#1 日本のアニメはいつから世界で人気になったの?

連載記事